IT運用監視員の異世界保守日誌 〜月一の帰社日に絶命した俺、現場の知恵で吸血鬼のバグ(権能)を無効化する。エリートお嬢様、その結界は既に穴だらけですよ?〜
第047話:第四星、ヴラド・ツェペシュ。規律の守護者
第047話:第四星、ヴラド・ツェペシュ。規律の守護者
霧の中から現れたその男は、馬を止め、静かに俺たちを睥睨(へいげい)した。 石膏のように青白い肌と、すべてを見透かすような真紅の瞳。その身に纏う黒い外套は、周囲の光を吸い込むかのように深い闇を湛えている。
男が姿を現した瞬間、俺の視界にある魔導盤(コンソール)が、かつてない激しさで真紅のアラートを吐き出し始めた。
[ANALYZING_IDENTITY...]
[Target: The Seven Stars - Vlad Tepes(第四星:ヴラド・ツェペシュ)]
[Authority_Level: SYSTEM_ADMIN_CLASS]
[Warning: Logic_Interference_Detected]
「……ヴラド・ツェペシュ」
アリサが震える声でその名を呼んだ。 この大陸に君臨する七人の吸血鬼(セブンスターズ)。その一角にして、第四の星。伝説に謳われる「串刺し公」その人が、今、俺たちの目の前に立っている。
アリサの剣を持つ手が、微かに震えている。無理もない。この男から放たれる「圧」は、先日のジル・ド・レのような狂気とは根本的に質が違う。あちらが暴走した猛火なら、こちらはすべてを氷結させ、静止させる絶対的な静寂だ。国を滅ぼすことなど、彼にとっては食事を摂るのと同じ程度の「日常」に過ぎないのだという事実が、肌を刺すような殺気となって伝わってくる。
「……私の領域に異変が起きたと聞き、正しに来てみれば。存外、小さな羽虫が騒がしく飛び回っているようだな」
男が口を開くと、周囲の空気が一気に凍りついた。 彼の声には、一切の迷いがない。己の行いこそが世界の正解であり、それ以外はすべて排除すべき「汚れ」であると断じている者の響きだ。その視線は、俺たちを人間として見ているのではなく、ただ並びを乱す「石ころ」として見ているかのようだった。
「貴様。その手に持つ奇妙な盤で、何をした。私の敷いた法を、勝手に乱したのは貴様か」
「……ただの掃除ですよ。あまりに勝手が過ぎる仕掛けだったのでね」
俺が皮肉を返すと、ヴラド公の瞳が僅かに細められた。 瞬間、彼の手のひらに鮮血の飛沫(しぶき)が収束し、一本の禍々しい槍を形成する。それは命の象徴であるはずの血でありながら、鉄の冷たさと死の気配を纏っていた。
「不遜な。法を乱す者は、万死に値する。……世界には、美しき静止こそが必要なのだよ」
彼が軽く手首を返すと、手中の真紅の槍(ブラッディスピア)が脈動し、周囲の空間そのものを杭で打ち付けるかのように固定し始めた。
俺は咄嗟にコンソールを確認するが、表示される数値に息を呑んだ。 彼が放とうとしているのは、ただの物理攻撃ではない。俺たちの存在する「場所」と「時間」を、逃げ場のない確定事項として定義し、世界そのものに縫い付ける――いわば、書き換え不可能な「座標のロック」だ。
魔導盤の警告(アラート)が最高潮に達する。 ジル・ド・レが「システムの破壊者」だとしたら、この男は「システムの停滞者」だ。
[ALERT] TARGETING_LOCKED: COORDS_FORT_GATE.
[ALERT] ATTACK_PATTERN: STAKE_IMPOSITION_FORCE_EXECUTION.
[CRITICAL] EVASION_IMPOSSIBLE.
「逃げ場などない。貴様らの運命は、今この瞬間に固定された」
俺たちの前に現れたのは、秩序を以て世界を串刺しにする、古き吸血鬼の王だった。
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