【第4章:デッドロック――串刺し公の規律】

第046話:砦の門前に、無数の「杭」が並ぶ朝

 砦の復興は順調だった。はずだった。  だが、俺がロードした「北のマップデータ」が現実と同期した瞬間、砦の監視兵たちの絶叫が、朝の静寂を切り裂いた。


「な、なんだこれは……!? 昨晩までは、何もなかったはずだぞ!」


 俺はアリサと共に、修復中の北門へと急いだ。  門を開けた瞬間に目に飛び込んできたのは、昨日までのどかな平原だった場所を埋め尽くす、地獄を整列させたような異様な光景だった。


「……何、これ……。冗談、でしょう?」


 アリサが絶句し、腰の剣に手をかける。  砦の門前から北の地平線に向けて、数千、いや数万という数の「黒い杭」が、等間隔に、寸分狂わぬ精度で地面を貫いていた。




[AREA MAP SCANNING...]

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|    [HORIZON]   |




 それは単なる嫌がらせや障害物ではない。  杭は一本一本体外に溢れんばかりの魔力を放っており、それらが相互に干渉し合って、砦の周囲の空間そのものを物理的に「固定」している。


「レイン、これ……動かせる? 魔法で焼き払うとか……」


「無理です。……見てください、魔導盤(コンソール)の解析結果を」


 俺が提示した画面には、無数の杭が網目状に繋がり、一つの巨大な「論理回路」を形成している様子が映し出されていた。


「一本の杭を抜こうとすれば、隣接する十本の杭が反動(フィードバック)で爆発する。さらにその衝撃が連鎖して、最終的にはこの砦の座標ごと吹き飛ばす仕組みになっています。……これは、ただの杭じゃない。侵入も脱出も、そして破壊さえも許さない『排他制御(デッドロック)』の魔法ですよ」


 ジル・ド・レが「混沌」を撒き散らすバグだったとすれば、この北からの贈り物は、あまりにも冷徹で、あまりにも「規律」正しい。


「公国(ゼニス)から……いえ、もっと高いところからのメッセージですね」


 俺がそう呟いた直後。  無数の杭のさらに先、朝霧の向こうから、一騎の馬がゆっくりと近づいてくるのが見えた。  馬上の人物は、この凄惨な杭の森を、まるできちんと整備された庭園でも歩くかのように優雅に進んでくる。


「……あれは、ゼニス公国の使者?」


 アリサの問いに、俺は首を横に振った。  魔導盤が、その人物から発せられる異常なほどの「管理者権限」を検知して、激しくアラートを鳴らしている。


 ジル・ド・レという異常系(エラー)が排除されたあとに現れたのは、システムの根幹を守るための、最も厳格で、最も慈悲のない「規律」の化身。


「いいえ。……おそらく、あれがこの『デッドロック』の設計者です」


 霧の中から現れたのは、黒い外套を纏った、峻厳な顔立ちの男だった。  彼が軽く手を上げると、砦の門前に並んでいた杭が一斉に共鳴し、空気を震わせる不気味な重低音を響かせた。


俺たちの前に現れたのは、秩序を以て世界を串刺しにする、古き吸血鬼の王だった。

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