IT運用監視員の異世界保守日誌 〜月一の帰社日に絶命した俺、現場の知恵で吸血鬼のバグ(権能)を無効化する。エリートお嬢様、その結界は既に穴だらけですよ?〜
第033話:倒しても立ち上がる、ゾンビ・プロセス
第033話:倒しても立ち上がる、ゾンビ・プロセス
砦の北壁。 かつて美しい草原だった場所は、今や「肉の波」に飲み込まれようとしていた。
「第二分隊、射撃用意! 放てッ!」
騎士団長の号令と共に、魔力を用いた一斉射撃が放たれる。光の矢が前方の腐敗兵を貫き、頭を吹き飛ばし、胴体を真っ二つに引き裂く。 物理的には「即死」のダメージだ。普通の軍勢なら、これで前線は瓦解する。 だが。
「……嘘でしょう? 身体がバラバラになっても、まだ這ってくるなんて!」
アリサの悲鳴に近い声が響く。 モニターの中では、首を失った死体が無造作に歩き続け、地面に転がった腕が勝手に跳ねて騎士の足首を掴もうとしていた。
(……なるほど、そういう仕様か)
俺は魔導盤に流れる戦闘ログを高速でスクロールさせた。 (騎士たちの攻撃は命中している。ダメージ計算も正常だ。だが、対象の「死亡判定」が書き換えられている。……いや、そもそもこの「ゾンビ」というオブジェクトには、最初から「HP(ヒットポイント)」という概念が存在していないんだな)
「レイン、どうすればいいの!? どんなに攻撃しても、倒したそばから肉が繋がって元通りになっちゃうわ!」
「お嬢様、落ち着いてください。彼らは再生しているんじゃない。ただ『終了処理』を拒否しているだけです」
「終了……処理?」
「普通、プログラム――失礼、魔術や生命現象には、終わり(END)を定義するコードがあります。だが、あのジル・ド・レが放った術式は、その終了命令を無視して、ひたすら同じ命令をループさせ続けている。いわば『死んだはずなのにメモリから消えないゾンビ・プロセス』です」
通常の敵なら、体力をゼロにすればメモリが解放され、戦闘不能という状態で処理が終わる。 だが奴らは、体力がマイナスになっても、肉体が塵になっても、プロセスが背後で走り続けている。だから何度でも、パーツを繋ぎ合わせて再起動(リブート)してくるのだ。
(これ、最悪なのは「倒せば倒すほど処理負荷が上がる」ことだ。バラバラになった破片一つ一つが独立したオブジェクトとして動き始めれば、こちらの監視能力も騎士たちの体力も、いずれオーバーフロー(パンク)するぞ)
「……レイン、何か策はあるの? このままじゃ、砦が肉の壁に埋め尽くされてしまうわ!」
「策はあります。……お嬢様、これは力押しで解決する問題じゃありません。必要なのは『強制終了(キルコマンド)』の実行です」
俺は魔導盤の深い階層へアクセスし、砦の防衛結界に干渉を開始した。 物理的な矢で倒せないなら、論理的なエラーとして処理するまでだ。
「奴らの接続先(ソースコード)は、あのジル・ド・レの魔導書にある。そこからの命令を遮断し、不正なループを断ち切る『パッチ』を即席で作成します。……時間は稼げますか?」
「……ええ、わかったわ! 騎士たちには私が直接指示を出す! 結界の維持に全力を注がせるから、あなたは――あなたのやり方で、あの化け物たちを消して!」
「了解しました。……管理者の特権、見せてやりますよ」
俺の指が、キーボードを叩くような速度で魔導盤の上を滑る。 画面上では、赤く点滅する無数の「バグ(ゾンビ)」たちのデータが、一列のコードへと変換されていく。
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