第025話:損壊命令のキャッチ&リリース

「私の呪いを……隔離したというの? この名もなき卑小ひしょうな人間が……っ!」


 呂后の微笑みが引き攣り《ひきつり》、大書庫の空気が激しく震える。  彼女の指先から放たれ続けていた「破壊の奔流」が、俺の右腕の寸前で目に見えない壁に衝突し、渦を巻いて滞留していた。


「隔離しただけじゃありませんよ。……あんた、この砦の騎士たち数千人分に、同時に『書き換え命令』を飛ばし続けてますよね」


 俺は再起動した魔導盤のレバーを叩き、ネットワークのトラフィック図を表示させた。  そこには、呂后という巨大なサーバー(発信源)から、砦の住人一人ひとりに向かって伸びる、膨大な数の「呪いの回線」が可視化されている。


「一度にこれだけの命令(コマンド)を実行すれば、当然、戻ってくる応答(レスポンス)も膨大になる。……あんたは今、数千人分の悲鳴と絶望を、自分の手元で受信して楽しんでいるわけだ」


「それがどうしたというの? その絶望の響きこそが、私の力の源。……私がすべてを統べている証よ!」


「ええ、その通り。……あんたは今、この砦の全リソースと『常時接続』状態にある。……なら、話は早い」


 俺の指が、コンソール上の特定のプロセスを「キャッチ」した。  呂后が騎士たちをいたぶるために送り込み、そして結果を受け取るために開けっ放しにしている、無防備な通信路。


「あんたが騎士たちに送り込んだ『壊れろ』という命令……。一旦すべて、俺がここで預かります(キャッチ)。……そして、あんたが受信を待機しているその大きな口に、一括で返却(リリース)してやる」


「な……返却!? 何を言って――」


「言ったでしょう。いたぶるのは非効率だ。……まとめて、一気に、一文字残さず送り返してやる。……受取拒絶(アクセス拒否)は認めませんよ。あんた自身が作った『正規のルート』なんだから」


 俺がコンソールの実行キーをフォース(強制)で叩き込んだ瞬間、砦全体に響き渡っていた人豚たちの咆哮が、ピタリと止まった。


 代わりに、空中に滞留していたドス黒い魔力が、逆流する濁流となって呂后の「影」へと殺到する。


『Command: Redirect_All_Infection_Payloads』

『Status: Releasing_to_Source_Root...』


「あ、が……っ!? 何、これ、私の力が……私の呪いが、戻って……くる……!?」


 呂后の影が、自ら放ったはずの「損壊命令」の波に飲み込まれ、ノイズ混じりに激しく明滅し始めた。


「さあ、自分の書いたクソコード(呪い)のデバッグ作業、じっくり楽しんでくださいよ。……管理者(オーナー)さん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る