IT運用監視員の異世界保守日誌 〜月一の帰社日に絶命した俺、現場の知恵で吸血鬼のバグ(権能)を無効化する。エリートお嬢様、その結界は既に穴だらけですよ?〜
第016話:翌朝、砦のステータスが「警告」に変わる
【第2章:データ損壊――残虐なる女帝のインジェクション】
第016話:翌朝、砦のステータスが「警告」に変わる
平和な「休息日(日曜)」は、文字通り一日で終わった。
週の始まり、光神の降臨日(第一日)。……俺の感覚で言うところの「月曜日の朝」だ。 地下室の魔導盤(コンソール)を立ち上げると、昨日まで安定していた魔力の波形(ログ)が、どす黒い赤色に染まって激しく点滅していた。
『Alert: Data Corruption Detected / Area: West Gate Annex』 (警告:データ損壊を確認。場所:西門別棟)
「……ちっ。月曜からこれかよ。週明けの朝イチに障害報告(アラート)を飛ばすのは、どの世界でも変わらないのか……」
「レイン、何をぶつぶつ言ってるの? それより早く来て、西門が大変なのよ!」
アリサが血相を変えて飛び込んできた。 俺は淹れたての苦い豆汁を一口すすり、即座に現場へ急行する。そこには、物理的な破壊ではない、もっと陰湿で致命的な「不具合(バグ)」が潜んでいた。
西門の別棟では、若手の騎士が自分の腕を凝視しながら震えていた。
「……お、俺の腕が……。感覚が、ないんだ……」
騎士の腕には傷一つない。 だが、その皮膚はまるで熱で溶けたロウソクのように崩れ始め、代わりに「豚の
「ヒールを……治癒魔法を何度もかけたのに、全く反応しないの! 傷として認識されないし、魔力が弾かれるのよ!」
アリサの声が震える。エリート設計者である彼女にとって、自分の理論(仕様)が通用しない事態はパニックに等しい。 俺は騎士の腕に手をかざし、魔導盤を介してその「構造(バイナリ)」を読み取った。
「……当然です。これは『怪我』じゃない。彼を『人間』として定義している情報そのものが、外部から強制的に書き換えられている」
呂后の権能――『人豚の呪い』。 それは、対象の肉体データを「家畜」へと置換する、悪質な外部注入(インジェクション)攻撃だった。
「お嬢様、落ち着いてください。……ここからは、俺が『直接、術式を書き換えて(パッチを当てて)』対処します。……騎士団全員を隔離してください。これは、感染(パンデミック)しますよ」
「感染!? 魔法が伝染するなんて聞いたことないわ!」
「これは魔法じゃない。汚染されたコードの伝搬です。……このまま放置すれば、この騎士は完全に『家畜』という属性に上書きされ、その周囲も巻き込まれる。……月曜の朝から、最悪の全システム障害ですよ」
「げつよう……? 今日は降臨日(第一日)よ、レイン。変な言葉を使わないで!」
アリサのツッコミを無視し、俺は魔導盤の水晶を鋭く弾く。 騎士の周囲に、青白いグリッド状の結界が展開された。
「……これから行うのは、治療ではありません。……汚染される前の正常な状態への『巻き戻し(ロールバック)』です。かなり痛みますよ、耐えてください」
俺がコマンドを確定させた瞬間、騎士の腕からどす黒い霧が噴き出し、歪な蹄がボロボロと崩れ落ちた。
「ア、ガ……アアアアアアアアッ!!」
悲鳴が上がるが、俺の目は冷徹なままだ。 モニタの端では、西門だけでなく、砦の「食糧庫」や「水場」といったインフラ設備にも、同様のノイズが走り始めている。
(……呂后。あんた、砦の『リソース』すべてを豚に変える気か。……いいだろう、デバッグ競争の始まりだ)
俺の「最悪の月曜日」が、幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます