IT運用監視員の異世界保守日誌 〜月一の帰社日に絶命した俺、現場の知恵で吸血鬼のバグ(権能)を無効化する。エリートお嬢様、その結界は既に穴だらけですよ?〜
第002話:異世界の砦は、ゴミのような欠陥現場だった
第002話:異世界の砦は、ゴミのような欠陥現場だった
目を開けると、そこは石造りの城壁の上だった。 状況が飲み込めない。死んだはずではなかったのか。 困惑する俺の視界に、妙な「ウィンドウ」が重なって見えた。半透明のコンソール画面。そこには、俺が前世で嫌というほど見てきたエラーログが、異世界の術式に変換されて滝のように流れている。
(なんだこれ……。職業病か? 死んでまでデバッグ画面が見えるのかよ)
だが、そのログの内容はあまりに惨烈だった。 目の前では、一人の少女が震える手で杖を掲げている。彼女の頭上には、まるでステータス画面のように無機質な文字列が浮かんでいた。
『Object_Name: Alisa_von_Bloodheart』 『Permission_Level: Owner (Temporary)』 『Current_Status: Critical_Error / Resource_Exhaustion』
(……アリサ・フォン・ブラッドハート? それが、この『管理者(オーナー)』の名前か)
脳が勝手に情報を処理していく。 彼女が何者なのか、ここがどこなのかは知らない。 だが、この凄まじいエラーを吐き出し続けている「実行主(ユーザー)」が彼女であることだけは、システムログが証明していた。
「な、なんだお前は! 控えろ! 私がいま、必死に儀式を行っているのが見えないのか!」
銀髪を振り乱し、必死に杖を掲げていた少女――アリサは、俺の不躾な視線に驚き、真紅の瞳を大きく見開いた。
「……儀式? いえ、これはただの『不正なリクエスト』です、アリサさん」
「な……っ! なぜ私の名を知っている! 貴様、どこぞの刺客か!?」
「……刺客? あいにく、そんな物騒なもんじゃないですよ」
俺は思わず、そのデタラメな魔力の流れを指差していた。 状況はわからない。だが、「目の前で壊れかけているシステム」と「過負荷で倒れそうな担当者」を見過ごせないのは、長年の夜勤で染み付いた呪いのようなものだ。
「あんた、さっきから同じ術式を、リソース(魔力)の空きも確認せずにひたすら連打(アクセス)してるでしょう。コアが処理しきれずにオーバーヒートを起こしかけてますよ。これじゃシステムもあんたも共倒れだ」
「な……りくえすと? おーばーひーと? 何をわけのわからぬことを! 貴様、誰の許可を得て、この儀式の総責任者である私に意見している!」
「……総責任者? ああ、なるほど」
彼女が放ったその言葉を、俺の脳内の翻訳レイヤーが、最も忌み嫌う役職名に置換した。
「プロジェクトマネージャー(PM)ってわけですか。あいにく、あんな現場も見ずに無茶なスケジュールを振る人種と一緒にしないでほしいですね。俺はただの運用保守です。いいから、一回その杖を下ろしてください。そのまま魔力を流し続けると、経路(ライン)がパンクして、あんた自身の魔力回路が焼き切れますよ」
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