第2話 自信がない
僕の家は古い団地だ。母親と二人で暮らしている。父はもう亡くなっている。
兄がいるが、もう一人で暮らしている。
母親は口うるさく、ダメ出しが多い。ストレスだが、僕は何も言わない。ちょっと抵抗した方がいいのかな?
昔、兄と喧嘩した時、マザコン男と言われたっけ。
今日も母親にタバコ買ってきてとか薬局で買い物してきてとかお願いされる。
まったく。足があるなら、自分で行けよな。パシリが激しい母親だよ。
薬局に買い物に行く途中、もう夕暮れで近くにいた夫婦が、「サンマの匂いがするね」とか言っていた。
僕には匂わない。みんな良く分かるな。何も匂わないけどな。
次の日、自家焙煎コーヒー店で働いていると、店長がやってきて、
「奥田君。焙煎機動かせる?急遽焼かなきゃいけなくて」と言った。
僕は焙煎の経験は一応あったのだが、いまいち自信がなかった。緊張して頭が真っ白になる。
店長は、「新人のこの子と一緒に焼いてくれる?」
最近入ってきた、20代の女の子だ。
「は、はい。焼きます」
僕は焙煎機に電源を入れて、ガスの元栓を開けた。女の子は、
「よろしくお願いします」と言った。
「よろしくね。今から、1バッチ焼くからね」
焙煎機はオランダ製のギーセンで、かなり高価な焙煎機らしい。
そこが緊張するんだ。壊したら大変だし、6キロ焼けるから失敗したら大変なロスだ。
店長も苦手だった。年は僕より若いらしいが、ムスッとして無茶を要求してくる。
接しづらい。店長と合わないから、店をやめようかとちょっと考える。
実際、あとから入ったやつが、店長と仲良くて、アルバイトから社員になったりしている。
僕は抜かれた。
店長とうまくやれないとだめなんだよな。この店は。
でも、この店の話だけじゃない。以前もすべてこの問題があった。
上役と緊張したり、僕の中で上役をよく思えない否定する気持ちがあるから、いわゆる出世ができない。
緊張、反抗。これが僕にはあるんだ。
焙煎機で豆を焼き始める。機械に豆を投入する。ドラムの中で豆が回転している。
僕はコントロールパネルを操作し、火力を上げた。
「40%上げます!」僕は女の子に言った。
「はい!」女の子はプロファイル用紙に記述する役目だ。
「少し、前回より火力が遅れてますが…」女の子が言った。
「え、え~と、まだ様子を見ます」僕は躊躇した。
その時、店長が後ろから、
「50%に上げよう」と言った。
「は、はい。50%上げます!」
女の子は記入した。
店長は、「150℃になったら、30%に落とそう」と言った。
「は、はい」僕は従った。
いつもこんな感じ。だから、いつまで経っても、焙煎に自信がない。
店長が近くにいないと、不安なんだ。
片方の鼻で生きてきた男 榊 直(さかき ただし) @sakakitadashi
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