片方の鼻で生きてきた男
榊 直(さかき ただし)
第1話 匂いが良く分からないんだ
僕は奥田 尚志。小さな自家焙煎のコーヒー屋でアルバイトをしている。
今は充実しているとは言えない。
もう32歳なのに、アルバイトだし。高校まで出たが、進学なんてしてない。
成績も運動もだめ。緊張が強く、接客は大の苦手だ。
このコーヒー屋でも接客があるが、あまりやりたくない。
たまに気分が乗ってくると、お客さんと話せる時もあるが、次に接した時にはもう話せなくなったりする。
なんなんだ。僕は。
コーヒーも匂いがよくわからない。致命的だろう?コーヒー屋で。
新しいコーヒーを店頭に出す時、店のみんなで試飲するが、みんなは飲む前にコーヒーの匂いを嗅いで、
「わ!フルーティーね!」とか「オレンジのようだね」とか言ったりするが、僕は分からない。
以前、もうやめたが、タバコを吸っていたので、鼻が悪くなったのか。
タバコを吸っている時は最悪。今はすこ~し匂いが分かるが、吸っている時は感度ゼロ。
ひどい悪臭がする場面でも、分からず昔はびっくりされてたっけ。
しかし、コーヒーは好きだ。飲めば分かる。分かっているつもり。匂いがすればもっと味が分かるのかな。
自宅で、ネット検索した。匂いについて。簡単なテストがあるらしい。アルコール消毒の匂いがわからないと鼻の異常があり、耳鼻科に行ったほうが良いとのこと。
やってみるか。
そこらへんにあったアルコール消毒液をティッシュに吹き掛け、右の鼻だけで嗅いてみる。
分かる。ちゃんとアルコールの匂いがする。
続いて、右鼻を押さえ、左はと・・・
分からない!まったくアルコールの匂いがしない。
なぜ、左だけ?
気になった。僕の左鼻は匂わない。右だけで嗅いでたのか。どうりで匂わんはずだ。
この時はただ、片方の鼻が匂わないだけだと思っていた。後にもっと深刻な状態だったと思い知る。
僕は花粉症もひどく。ついでだったので、片方の匂いも相談しに近所の町にある耳鼻科に行った。
先生に片方がアルコールの匂いがしなかったと告げた。
先生はライトを当て、僕の左鼻を覗くと、
「あ~これね。君ね。鼻の中が曲がっているよ。だいぶ塞がっているね」
「え?そうなんですか?」
その時は特に先生はこうしようとかはなかった。しょうがないよという感じ。
花粉症のケアだけして帰った。
くそ。鼻が曲がってる?しょうがないのか。
秋が終わり、風が冷たい夕方だった。
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