第1-3話 成功した探索と、失敗の予兆
西の森の入り口。
そこは湿気が多く、薄暗い霧が常に足元を這い回る不人気の極みのような場所だった。泥に足を取られ、視界も悪い。多くの冒険者がここを嫌うのは、魔力探査を放っても霧に含まれる魔素に乱反射してしまい、解像度が著しく落ちるからだ。
「さあて、お仕事開始といこうかね」
ヴェルンは杖を軽く突き、深く息を吐いた。
彼は魔力探査を使わない。代わりに、一歩踏み出すごとに杖の先をトントンと、一定のリズムで地面の硬い箇所に叩きつける。
(……うん、この響きだ)
杖から伝わる振動に、ごく微弱な初級土魔法を乗せる。
それは周囲から見れば、ただの足元の悪い道を歩くおじさんの姿にしか見えない。だが、その杖から放たれた極小の振動は、音響レーダーのように地面を伝わり、霧の向こうにある岩の配置、泥の深さ、そして生きた筋肉の密度をヴェルンの脳内に描き出していく。
これこそが、彼が独自に磨き上げた物理センサー――地勢魔法の応用だ。
(前方三十メートル、倒木の下に一匹。……ありゃ沼ワニだね。こっちには気づいてない。右手の岩影には……ふむ、毒キノコの胞子が溜まってる。避けて通ろう)
彼は一切の殺気を出さず、まるですでにそこにある風の一部になったかのように進む。
時折、木の葉が揺れ、あるいは小石が転がる。だがそれは、ヴェルンが初級風魔法でそう見えるように仕向けた、自らの足音を消すための環境音だった。
「おっと。あそこに咲いてるのは……目的の銀露草じゃないか。早いねぇ」
深い茂みの奥、崖の途中にひっそりと生える薬草を見つける。
普通なら魔力探査で探そうとするが、銀露草は魔力を浴びると瞬時に枯れてしまう繊細な植物だ。だからこそ、アクティブな探査を基本とする若手たちは、この依頼を見つからない不毛な依頼として敬遠する。
「おじさんの『眼』は、君たちを傷つけないからね。安心しておくれ」
ヴェルンは慎重に、だが流れるような手つきで薬草を採取した。
ここまで、消費した魔力は初級魔法の数回分。息も切れていない。戦わずして勝つ、それが彼の冒険者としての矜持だった。
だがその時、森の反対側――北の谷の方角から、空気を引き裂くような大きな魔力の波動が伝わってきた。
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万年C級冒険者は、世界の歪を観測する 小下ルリ茶 @kogeruricha
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