第3話「輝くだけのスキル?」②

 車のクラクションが聞こえて俺は、立ったままの状態で目を覚ました。


 月の光が眩しく感じる。




 続けてあちこちからクラクションが続いた。


 状況が理解できないまま辺を見回すと、見慣れないスクランブル交差点の中に俺達、転生者が立っていた。


 みんなに続いて、側にいる家族も目を覚ました。




「んん? お兄ちゃん。ここは? 東京?」




「俺もよくわかんないんだけど、どうしたんだよミツキ?」




 ミツキが見上げる先にあったのは――東京スカイツリー?


 しかも、全くの無傷……ではあるが、建っている場所が普通じゃない。




 周囲の店やビルに支柱が突き刺さっている。


 アスファルトも捲れ上がり、ソ・レ・は建てられたというよりは、俺達のように突然現れた……と考える方が無難だ。




 東京スカイツリーも異世界転生?




「なぁ、タルト。父さん達、元の世界に戻ってきたワケじゃなさそうだぞ」




「それは俺にも分かるよ。渋谷っぽいけど、全然違う。看板の文字も見たこと無いし、きっと、もう異世界なんだ」




「私達が突然交差点の真ん中に現れたんだから、そりゃ交通パニックも起こすわね」




 母さんはミツキの肩をそっと掴みながらそう言った。




 あちこちで狼狽うろたえる人々が、東京スカイツリーを見上げて困惑している。




 そして、俺達を囲む人々――恐らくこの街の住人は、俺達以上にだろう。


 突然交差点のど真ん中に大量の人間と、見た事も無い鉄の塊が現れたのだから。




 で、これからどうすりゃ良い? この街にキーエッグとやらがあるのか?




 あの双子、具体的なヒントや指示なんてのが無かったぞ。


 ノーヒントで馬鹿でかい世界から、小さな卵を5つも見つけるなんて、本当に可能なのか?


 そんなことを考えていると数人が空を指差した。




「あれ何だ?」




 そういわれて俺達も上を向くと、オスプレイに似た飛行機体の群れが赤いパトライトを点滅させ、こっちに近づいてくる。




 キーーーーーーン……。




 なんだ? 耳鳴り?


 周りを見たところ、どうやら俺だけに聞こえているみたいだ。




 突然、大量の音が濁流のように耳に流れ込んできた。


 鼓膜が発狂して、頭が割れそうに痛む。


 何が起こったのか? 慌てて頭を振ったけど、そんなの効果はなかった。




「ぐゎぁああ。何だコレ!」




 混在する音を何とかして振り払おうとした時、急に1つ1つの音が綺麗に整列した気がした。


 その1つ1つの音の粒を捉え、掻き分けることができる。




「どうしたのタルト?」




 と俺を心配する母さんの声がゆっくりに感じた。




 髪の毛が衣服に擦れる音。




 困惑する転生者達一人一人が発する言葉。




 羽虫の音、鳥の羽ばたく羽根の音。




 オスプレイ型機体のプロペラが空気を切り裂く音。




 中にいる人間の息遣い……ガチャリという銃火器らしき音!?


 極端に低い速度で男の声が聞こえる……。




 ――「転生者……いや、厄災を殲滅しろ」




 聞き間違いじゃない。確信があった。


 その言葉を捉え、俺は思わずみんなに向かって叫んだ。




「みんな逃げろぉぉおお!!」




 突如、飛行機体の側面ドアが開いた。


 垂れ下がるロープから滑り降りる黒い兵士達の姿が、俺達に向かって銃声を鳴らした。


 マジかよ!




 ヒュンヒュンという弾丸の空気を切り裂く音が、次の瞬間の破滅を告げていた。


 側にいた転生者の頭と胸を貫く。


 糸が切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちる。




 母さんとミツキの悲鳴に続くように、あちこちで悲鳴が聞こえた。




 銃弾の雨から逃げるように、転生者達が四方に散らばる。




 俺達もその場から走った! 行き先なんて分からない。


 どこに逃げれば良いかなんて分かるわけない。


 ただ、安全地帯……いや、そんなモノ、ここには無いが……。




 とにかく生きないと。みんなを守らないといけない。




 野次馬と化す住民達を掻き分け、アーケードへ逃げ込む。


 前方のアクリル屋根を兵士が突き破り銃を連射!




「こっちはダメだ!」




 力強くターンして路地に滑り込んだ。




 肩が擦れる程に狭い通路を抜け、車道側に出ると、目の前で兵士に囲まれた転生者達の姿が見えた。


 アイツ等、本気で俺達のことを殲滅するつもりのようだ。


 一瞬の甘さもなく、容赦がない。




 てか厄災ってなんだよ? 俺達がアンタ達にとって禍わざわいってことなのか?


 意味分かんねぇって。




 俺は、後ろの家族を手で制止して、気づかれようにゆっくりと路地へ後退した。




 怯える転生者達。


 その中の一人の男が腹を括り怒声をあげた。




 急に熱を感じた。


 なんだ? あの人の体から炎が!?




 意を決した男が、目の前の兵士に炎を纏った拳を放つ。


 一気に間合いを詰め、振りかぶった男の拳は、フルフェイスマスクを粉砕した。


 兵士が悲鳴をあげながらが吹っ飛び、スカイツリーの支柱に激突した。




 アレがもしかしてイースターエッグの力ってヤツか?


 スゲー!




 自分の力に驚いている転生者だったが、即座に銃声と共に倒れた。


 囲まれていては分が悪すぎる。


 クソっ……。




「こっちにいたぞ!」




 背後から兵士の声が聞こえた。


 マズイ、気づかれたか!




 狭い路地じゃ逃げ道がない。


 正面には大勢の兵士達。


 万事休すか……。




 キーーーーーーン……。


 なんだ!? まただ。


 この感覚が研ぎ澄まされる感覚は一体……。




 銃声、悲鳴、コンクリートが砕ける音。




 雑音を掻き分けた先にある音の粒。




 遠くで聞こえる地響きだ。


 地上……いや、違う……上だ!




 空を見上げると巨大な鉄の塊……いや、船が浮いている。




 兵士が付けているイヤフォンの音が粒となり、聞こえた。




 ――『アーヴォーン帝国だ。突如として現れた。転生者達を捕獲しに来たのだろう。だが、これは領空侵犯だっ!』




 ――『それを分かってのこの横暴。国家間の戦争になるぞ』




 ――『とにかく国民が危険だ。各隊員は国民の避難を第一優先に切り替え、状況に応じて敵を迎え撃て!!』




 今度はなんだよ? アーヴォーン帝国? 俺達を捕獲だって?


 ん? まだ何かいっている。




 ――『こうなったらまた、あの凄腕ガンナーのクレープ=アフォガートを雇って加勢して貰いますか?』




 ――『バカヤロウ! アイツを1度雇うだけで飛空艇が買えるほどにボッタクラレるんだ! それに……く、く、クレープ様が来たら、殆どの兵士が骨抜きにされちまって戦いどころじゃなくなる』




「クレープ?」




 その時、俺の目の前で謎のビジョンがフラッシュバックした。


 そこには、シルバーブルーとピンクの編み込まれた長いポニーテールが風にそよぎ、圧倒的に整った横顔のガンナーの姿があった。




 この子がクレープ? だと俺は不思議と確信した。




 肌の面積がやたらと多い上に、立派なボディーラインを強調しているが、何故かオシャレで上品に見える黒い服。


 確かに顔から体つきまでが男を魅了するには説得力がありすぎる。




 ……と、俺まで変なことを妄想してるヤバイ奴みたいだ。




 意識を切り替えた俺は、狼狽える兵士達の隙をついて、家族の手を引いた。


 近くのコンビニの中に逃げ込む。




 雑誌コーナーの影に隠れ、外の様子を覗き込む。


 すると状況の分からない父さんが口を開いた。




「どうしたタルト? 何があった?」




「タルト。あんたさっきから様子が変よ」




 父さんに続き、母さんも俺を心配する。


 今、俺の身に起こっていることを説明したいところだけど、そんな余裕はなさそうだ。


 だけどこれだけは伝えておかないと……。




「あの空に浮いてるデッカイ船みたいなヤツが、俺ら転生者を捕獲しに来たらしい」




「捕獲だと?」




「お兄ちゃん!」




 と、ミツキが急に怯えた様子で俺の服を掴んだ。


 こんな姿のミツキは見たことがない。




「どうしたんだ? ミツキ」




「あ、あそこから……凄く怖い何かを感じるの……」




「あそこって。あの船か。てかどうしたんだよ? 怖い何かって」




「わからないよ。だけど、凄くヤバいってのはわかる」




 俺はミツキの手を強く握り締めた。




「大丈夫だ。兄ちゃんが絶対にミツキをあの船には近づけさせないよ」




 うん。と涙を浮かべるミツキが頷いた時、閃光と共に地面が揺れた!


 そして途轍もない爆発音。


 風圧で店舗のガラスが粉砕して、俺達は後ろに吹き飛んだ。




「がはぁ……」




 背後の商品棚が、クッションの役割を担ってくれたのか? 若干背中が痛いくらいて済んだのは運が良かった。


 俺は店舗の入口へ向かい、外の様子を確認した。




「これは――戦争だ」




 空に浮かぶ船がミサイルや、青白いビームを放ち街を破壊してゆく。


 兵士達も応戦はしているが、破壊力が雲泥の差だ。


 爆撃の中、兵士達の体があちこちへ舞っていた。




「タルト! 危ないからこっちに戻って!」




 母さんの言葉に促され、後ろに後退した時、天井を何かが貫いた。


 咄嗟に顔を伏せた。


 ミツキの悲鳴が聞こえる!




「ミツキ!」




 埃を払った先で見えた光景に俺は言葉を失った。


 天井を貫いた蛇腹のワイヤー。


 その先のアームがミツキの体をガッチリと掴み、一気に引き上げた。




 姿を消したミツキ。


 母さんと父さん、そして俺も叫ぶ。




 直後に2つの轟音が鳴り、天井に新たな穴が空くと、母さんと父さんもワイヤーと共に消えた。


 俺は慌てて外に飛び出し空を見上げた。


 やったのはアレだ。あの船だ!




 みんなを……捕獲された……。

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