第1話「炎の東京スカイツリーと2624人の異世界転生者」②

「なんでトイプーなんだ……。デカ過ぎて恐ろしいけど可愛い。なんか無性にかわゆい」


「わぁ、トイプーだぁ」


 そう言いながら、無用心にも抱きつこうとしたOL風の女を巨大な肉球が踏み潰した。


 ――グシャリ。と音を立て、飛沫しぶきを巻き上げるトマトのように絶命した。


 俺を含め周囲にいた人達が言葉を失い、数人が悲鳴をあげた。


 トイプードルはキューンと鼻を鳴らし首を傾けると、愛らしい瞳を煌めかせた。

 すると、後ろにいた男女がふらふらと歩み寄り……そして踏み潰される。


 愛らしさで人を誘惑し、無邪気に殺す。

 なんと恐ろしいトイプーだ。


「目を見るんじゃない。虜にされるぞッ!!」


 誰かが鋭く叫ぶと一斉に下を向く。が、そうなるとトイプードルの動きが見えない。


 そんな俺の頭上を鈍く重い風が通りすぎる。髪の毛の先を肉球が擦れた。

 直後に雑居ビルの外壁が転生者と共に砕け散る。


「あっぶねぇ。こんなのまともに食らったら俺も即死だ! でも、何とかして早くここから進まないと! ……クソッ! 動け、俺の身体!」


 愛くるしいトイプーは俺達をオモチャと思って遊んでいるだけにも見える。

 だけど、あまりにも体格差があり過ぎるんだ。あの可愛い肉球パンチは今の俺達には致命傷になる。

 今も目の前の人達が噛み付かれ、振り回し投げ捨てられ、地面に叩きつけられる。


 この状況を脱する手はないのか?


 ――そうだ! から貰ったパンフレットに手がかりがあるのかも知れない。


 手の震えが治まらない。なんとかマウンテンパーカーの内ポケットから取り出した青い小冊子。

 索引から『エッグの使い方』のページを開く。


「イースターエッグの秘めたる能力を引き出す為には……気合と感覚で乗り越えるべし。はぁ? それだけかよ。なんだよ気合と感覚って」


 小冊子をポケットに仕舞い込むと、拳を握り、足を開き中腰の姿勢を取る。


「よく分からないけど。とりあえず気合をいれりゃあいいんだな。はぁぁぁぁあああっ!!」


 すると俺の気合に呼応するかのように全身が白い光を帯び始める。


「な、なんだコレ。俺、光ってる?」


 纏わり付く光は次第に鋭い輝きへと変化し、その眩しさにトイプーが怯んだ。

 周囲の転生者達から期待の篭った声があがる。


「すげー。俺、今、全身からオーラを噴出してるぞ。これが力が溢れるって感覚か! 先週にアニメで見たやつだ! よし、このオーラを手から放てば攻撃ができるのかも知れない。行くぜッ」


 と、手の平を突き出したが何も起こらない。


「え?」


 不思議そうに手を見やる俺に、期待を寄せていた者達も動揺した。


「え?」


 輝き続ける俺を中心に謎の沈黙が続いた。


 そして、俺は確信した……いや、直感的に感じたんだ。

 このエッグ、いや、能力スキルは……。


 ――ただ、輝くだけのスキルだということを……。

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