浮遊世界のキーエッグ~「価値なし転生者」と烙印をおされ、インフラのエネルギー源にされた家族ですが、絆と低レベルスキルで世界を救います~

羽之 晶

第1話「炎の東京スカイツリーと2624人の異世界転生者」①

 俺達と共に爆発し、崩落したはずのあの東京スカイツリーは、燃え盛る謎の街の中心で異彩な存在感を放っていた。


 東京に似て非なる街の中、俺達――転生者はただ逃げ惑うことしか出来なかった。


 頭上をヒュンヒュン通り過ぎる砲弾のシャワー!

 凄まじい爆発が連鎖する。


 みんなの断末魔なんて、爆発音のせいで全く聞こえないっての。

 街がメチャクチャに破壊し尽くされる音だけが響いている。


 赤と黒のグラデーションの空を覆い尽くす、あの鉄の船のデカさ! ショッピングモールが丸々空中に浮いているみたいだ。


 一定間隔で大きく唸るそいつの振動は、俺の鼓膜を容赦なく連打し、内臓をも震わせる。その度に腰が抜けそうになるくらい圧倒された。



 大きく開いた舟艇から延びる蛇腹のワイヤーが、次々と転生者達を捕獲しては、その恰幅の良い腹に飲み込んでゆく。


 俺の母さんや父さん、そして妹もあのワイヤーに捕まってしまった。

 どうして俺だけが取り残されてしまったのか……。


 街をこれだけの惨状へ変えたに、優しさが存在するとは到底思えない。目的は分からないが、家族の命が危険だ。それだけは分かる。


 足が竦んで動けない。


 でも、ここでただ黙って怯えているワケにもいかない。


 ――あの船の中に入って家族を救い出すんだっ。


 その為には、俺自身をワイヤーに捕獲させるのが手っ取り早い。

 無謀かも知れない。だけど、諦めてどうなる……いや、諦めることなんて出来ないんだ。



 さて、どうやって船へと近づく?


「たぶん、あのワイヤーは一般人には見向きもしてない。俺達、転生者の存在だけを感知しているようだ。捕獲されるのを待つんじゃない。俺の存在を一番分かりやすく示してやる。一番目立つ場所……あそこへ行くしかない」


 視線の先には街をぐるりと囲む巨大な赤銅色の壁が見える。スカイツリーの半分程の高さだろう。


 あそこの頂上へ行くことができれば、船の軌道上にまで近づくことができるかも知れない。

 この灼熱の海を搔い潜らなければならないが……。



 肌に当たる風がジリジリと表面を炙り、呼吸をすると鼻や口の中が熱くて堪らない。

 ビニールや化学製品のようなモノが焦げた臭い。気持ち悪くて吐きそうになる。


 だけど、進むしかない!


 俺の勇気を振り絞った一歩は予期せぬ存在によって阻まれた。

 自分よりも5倍は大きな影が、うねり立つ炎の奥で揺らめく。


 ズシン……ズシン……と近づく程に、ヒビだらけのアスファルトが波打った。


「今度は何なんだよ?」


 ふと過よぎった既視感。

 そうだ、こういうシーンはアニメや映画でよく目にする。

 獰猛な野獣や、暴走する機械兵なんてのが登場するお決まりの展開だ。


 ……と、冷静に考察をしている場合じゃない。


 今、目にしているのは画面越しの幻想ファンタジーではなく現実リアルなんだ。

 新たなる恐怖が、せっかく奮い立たせた俺の心を容赦なくへし折った気がした。



 そしてついに影の正体が現れる。


 4本足の獣だ。


 巨体を覆う茶色の体毛。


 大きく丸い目。


 少しだけ収まりのつかないピンク色の舌がヒラヒラとしている。


 これは……あれだ……。



 ――トイプードル。

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