第10話

今からか。さすがに疲れたな。

「ふぁ〜…とりあえず寝よーと。サン坊も俺の部屋来るか〜?」

シルバーの言葉にサンは困惑する。

「いや!行かなくていいのか??」

「急ぐ気持ちも分かるけど…いや、全然分からないけど、ゆっくり休むのも大事な事だよ〜。とにかく自由に過ごしな〜」

シンバは手を振りながら自室へ歩き出した。

「そしたら、俺はこの島見て周ってくるよ。」

「おけ〜、そしたらちょっと待ってな〜」

そう言うとシンバは何かを探し、見つけたようだ。

「悪いが、ギルをここへ呼んでくれねえか〜」

「おい…シンバ。それ…ウサギだぞ。」

サンは理解が出来ず、シンバに気を遣う。

「それが普通のリアクションだよな〜当たり前すぎて忘れてたわ」

シンバが笑っていると、ウサギはどこかへ行ってしまった。

「とりあえず、ギルをここで待って、案内してもらえ〜!」

「おう!!」

とは言ったものの、本当に来るのか?…

「待たせたな。」

「本当に来た。ここのウサギ。賢いな。」

サンは兎へ尊敬の念を抱く。

「ただのウサギじゃないからな。ウサギだけじゃない、ここに居る動物達は全てツクヨミの研究者達が開発した首輪型の装置『シンク』によって、意志疎通できるようになった動物なんだ。普段は警備を任されている。」

「そんなもん着けてて大丈夫なのか?」

サンは動物達への影響を懸念する。

「あぁ、ツクヨミの研究者達が動物たちへの負担を最小限に開発されたものだ。」

(ふーん。ちゃんと考えてんだな。)

「さて、案内しようか。まず本部へはツクヨミの人間のみ立ち入る事が許されている。」

「本部の中心、俺たちが居るここがツクヨミ『総本部』だ。総本部の四方を囲うように、『医療機関施設』、『研究、開発施設』、『学校』、『隊員訓練場』が設置してある。」

「学校?なんでそんなもんがツクヨミの本部にあるんだよ」

「それはバツサイの本当の由来に関係している。これは追々話そうと思っていた事だが、そもそもバツサイとは悪い者に『罰』と『制裁』を与える、略してバツサイ。だったよな?たが、実際の所は『才』を『伐採』する。略して『バツサイ』。力を独占する事で世界の中心に立ち、力で世界を支配する事が『バツサイ』の狙いの根幹にある。そして、『才を伐採された者』すなわち奪われた者は例外なく、才を奪われる前の記憶の一切を消失している。」

ギルの説明にサンは疑問を抱く。

「消失??じゃあギルが記憶の一部が無いのは才を奪われたからなのか?」

サンが結論を急ぐとらギルは横に首を振る。

「俺は違う。もしそうなら、幼少期の記憶や、ツクヨミに入った記憶も全てが消えているはずだが、俺にはある。」

「あーなるほどな?」

全く理解していないが適当な合図ちを打つ。

「とにかく、そんな自分が何者かも分からない奴が生きていける程、この世界は甘くは無いという事だ。だからそういう被害者や、見込みがある孤独児を世界全体から連れて来て、学習する場を設けている。」

「へえ。俺もその内の1人ってわけか。」

(学校か。行ったことねえけど、どんなとこかな。)

学校という未知の世界にサンは少しだけ落ち着かない様子だ。

「いや、お前は俺たちの班の隊員だ。」

「なんだよ!!結局そうなのかよ!!」

(さよなら、俺の学校ライフ…)

学校という未知の世界はサンの選択した人生では味わえぬようだ。

「んで?他は?」

「後は、また4つの施設をそれを囲うように、我々の寮がある。前方にプラチナ軍隊員の寮、右にコッパー軍、後方にシルバー軍の寮がある。そして左に我々ゴールド軍の寮がある。」

「俺たちゴールド軍なのね。もう驚きもしねえよ。」

サンもギルが急に情報を出してくる流れも段々掴めてきた。

「あれ?言ってなかったか??そして軍艦全体を囲うように…」

「また囲んのかよっっっ!」

サンは渾身のツッコミを披露する。

「囲む事によって『総本部』への侵入経路を阻む役割があるんだ。」

ギルが食い気味に応える

「おぉ……すまん。話の途中だったな。」

(ギルはツッコミって知らねえんだな。次から気をつけよ。)

「あぁ、そして軍艦全体を囲うように見張り台がある。他にもあるが、細かい所まで話してたら、案内せずに休憩が終わりそうだ。さてどこ行く?」

サンは少し悩んで訓練場へ向かう事に決めた。

「良い選択だ。今なら、プラチナ軍隊員の訓練が見れるぞ。」

その言葉にサンは胸が高鳴る。



「ここだ。着いたぞ。」

訓練場と思われる建物の前に銅像が立てられている。

「それは、ボスの旦那様だ。なんでも戦闘系の才を持ち、ツクヨミでは敵なしだったようだ。」

「へえ。」

「興味は…あるわけねえよな。」

「ああ!!」

「じゃあ行くぞ。」

ギルはサンのいつもの調子にため息が出る。


「お?ギルか。どうした?」

メガネチャラチャラ男が俺たちに気づいて声を掛ける。

「シンバより、サンに案内を。と。」

「へぇ〜、あ!面白いこと思いついちまった!!模擬戦やろうぜ〜!」

「模擬戦…ですか。」

「あぁ!!正直サンくんのシンバ班への加入、反対してるツクヨミの連中が多くてね、そうだな〜…うん!もし俺の軍隊のルーキー『ザザン』へ勝ったら、ここの連中も黙るだろ。」

(プラチナ軍の反応から見るに、ザザンって奴の強さは保証されているんだろう。俺は喧嘩は専門外だ、断るに決まって…)

「へ〜面白いじゃん!やろうよサン坊!!」

「うんうん……げっ…シンバ!!!どこから居たんだよ。」

ひょこっと現れたシンバに鬱陶しそうにする。

「怖気付いたのか、サル」

いつの間にか、両脇にシンバとキーマンが立っていた。

「あーあーあー、やってやるよ。わざわざ揃いも揃って俺がやられるところ見に来たのか?あ?」

サンは不機嫌な態度を見せる。

「頑張れよ。」

ギルが肩に手を置く。

「ギル…お前なら止めてくれるって信じてたのによ!!!俺が怪我して任務に行けなくなった時、どうギルティーノに説明するかを考えとけよバカ共!」

サンは予想外の展開に投げやりになる。


すると1人こちらに近づいてくる。

「俺、1年前学校卒業したっス!プラチナ軍へ配属されてから、同期の模擬戦で負けたことねえっス。だから負ける訳にはいかねえっス。歳は多分19っス!」

「多分?」

はっきりとしない答えに違和感が残る。

「俺、才奪られちまったっス!!記憶ねえっス!!」

ザザンは陽気に笑う。

(それにしてもなんだコイツ。背が高えな。ギルくらいありそうだぞ。)

「俺、喧嘩は専門外の盗人だからよ。そこんとこ宜しく頼むぜ。」

「はいっス!!!!」


―プラチナ軍のルーキー『ザザン』の実力は、いかに―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつの日かの俺が正解の道に辿り着くまで 鈴木 柊 @suzuki_hiiragi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ