第2魔 打倒勇者を掲げる魔王

 世界の命運を賭けた聖戦から150年後。人類は大きく発展した。

 帝都クラウスカイを中心に国が設立され、それぞれの土地を他種族が統治した。


 エルフによって自然が守られ、ドワーフによって生活のインフレが進み、亜人によって食物が増え、人類によって魔獣の進行を更に押し上げていった。

 昔は誰もが生業としていた遊撃隊は、平和となった今では守衛隊という名前に変わっている。

 数を減らした魔獣の討伐よりも、生活を豊かにする娯楽製作が賑わい続ける現代。


 帝都の宿泊エリアにある小さなオンボロ宿。

 たった一組が泊まっているその宿は、何故か毎日騒がしかった。


「作戦会議を開くぞ!」


 狭い一室。そこには小さな少女、いや幼女と青年が顔を見合せ座っていた。

 ボロい内装とは釣り合わない二人の格好。


 紫紺の髪の幼女・ヴィルバトスはまるで一族の王女プリンセスのようなドレスと髪飾り。

 黒髪の青年・レインは執事のような燕尾服をきっちりと着込んでいた。


 場違い感の否めない二人。お互いの表情もテンションも対照的なものだった。

 やる気もなく表情も一切動かないレインに対し、ヴィルバトスは薄い胸を張り自信に満ちた表情で「ふんすっ」とやる気十分な様子。


「今回の議題はこうだ!」


 ヴィルバトスは懐からホワイトボード(のような何か)を取り出す。

 そこには雑な文字でこう書かれており。


「『勇者をギャフンと言わせる方法!!』……あの、このテーマでの議題何回目ですか?」


「ふっ、20から先は数えてない」


「はぁ…………。ヴィル様、これ以上の会議は不毛かと思うのですが」


「何を言うか。我々魔王軍にとって今後を左右する超絶ウルトラスーパー大事なことじゃないか」


「そう、ですか」


 レインは周囲を見渡す。

 男女二人が寝泊まりするには手狭なワンルーム。

 もちろん隠し部屋があってそこに誰かが潜んでいるということは一切ない。


 ヴィルバトス──150年前に父である魔王が亡くなり、その意志を継いだ2代目魔王。

 彼女の言う魔王軍とは、自分とレインを含めたたった二人のことを指している。

 軍という言葉を一度辞書で調べてほしいと思うレインだったが、相手は仮にも魔王であり上司。


 出かかった言葉をグッと心の奥にしまうのであった。


「で? レインよ。何か勇者をけちょんけちょんにできる案はあるか?」


 小首をこくんと傾けながら、ヴィルバトスは問いかける。

 これまで一切表情を崩さなかったレインは小さくため息を吐く。

 そして、自分の意見を魔王にぶつける。


「まず、勇者云々よりも僕らがやらなくちゃいけないことがありすぎます」


「ほう、言ってみろ」


「金が底を尽きそうです」


「────ほへ?」


 間の抜けた声が狭い一室に響く。

 ぽかん、という擬音が聞こえそうな表情でヴィルバトスはレインを見つめる。


「も、もう一回言ってもらっても?」


「金が底を尽きそうです」


「前まで結構あったじゃん! 箪笥たんすの中とかに!」


「あれは今月の宿泊費と食費で消えました」


「作戦会議してる場合じゃないじゃん!」


「やっと分かってくれましたか」


 顔を青くさせ頭を抱えるヴィルバトス。


「ど、どうしようレイン!」


 今度は目を閉じ大きなため息を吐く。

 ゆっくりと目を開けレインは冷静に告げた。


「働きましょう」


「うぅぅ……」


「僕らにはそれしかないんです」


「ほ、誇り高き魔王たる私が…………人間共と働かなければならないのか…………!?」


「いいですかヴィル様。明日も生きるか死ぬかの瀬戸際なんです。僕は死にたくないですけど貴方は?」


「こ、これも全部勇者のせいってことには……」


「訳の分からないこと言ってないでさっさと働きに行きますよ」


「うわあああああああん!!」


 こうしてボロ宿を出た一行なのであった。

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魔王さまは懲らしめたい! 鍵錠 開 @tirigamibadman

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