大きな墓守と小さな子どもー自分を救うための戦争で、僕は死体を埋め続けるー
ミスミシン
第1話 死者の谷のランタン
むかしむかし──あるいは、いつかどこかの物語です。
その世界では、あまりにも長く戦争が続いていました。
どれほど長く続いていたのかは、もう誰にもわかりません。
おじいさんのそのまたおじいさんが生まれる前から、人々は剣を振るい、火を放ち、互いの国を奪い合っていたのです。
国の境目にある広い谷は、いつしか「死者の谷」と呼ばれるようになりました。
そこは、両方の国から押し寄せた兵士たちが最後に行き着く場所でした。
昨日まで麦を植えていた若者も、遠くの街で帰りを待つ家族がいる父親も、この谷に足を踏み入れれば、ただの動かなくなった肉へと変わってしまいます。
谷の空気は、いつも重く、湿っていました。
鉄が錆びる匂いと、泥が腐る匂い。
そして、誰にも弔われないまま放置された死体から立ち上る、名前のない悲鳴のような風。
太陽の光さえ、この谷の底までは届きたがらないようでした。
けれど、そんな地獄のような場所に、いつの頃からか不思議な噂が流れるようになったのです。
「夜、死者の谷に明かりが灯る」
疲れ果てた兵士たちが焚き火を囲み、震えながらそう語り合いました。
「あれは、迷える魂を導く火ではない。墓守だ。あそこには、小さな墓守がいるんだ」
噂によれば、その墓守はまだ幼い子どもなのだといいます。
彼は片手に古い
彼は、敵の兵士も味方の兵士も区別しませんでした。
ただ、そこに横たわる冷たくなった人々を見つけると、丁寧に、丁寧に土を掘ります。
そして、彼らが身につけていた鉄の帽子や、胸に飾られた勲章を墓標として傍らに置き、そっと祈りを捧げるのです。
兵士たちは、その子どものことを敬意と恐れを込めて「王子」と呼びました。
泥にまみれたボロボロの服を纏っていても、その背筋はすっと伸び、死者を見つめる瞳はガラス細工のように澄んでいたからです。
夜の闇の中、ランタンの淡い光に照らされて、小さな影がザリ、ザリ、と土を掘る音だけが響きます。
それは、呪われた戦場における唯一の、そして最も残酷で美しい調べでした。
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大きな墓守と小さな子どもー自分を救うための戦争で、僕は死体を埋め続けるー ミスミシン @URADANA
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