祈りを忘れなかった者達へ

花藍81。

第1話 『魔王』

 神は全能ではない。故に、世界を救えぬことも、生命の炎が燃え尽きることもある。…そして、命を落としたとき、己が作り、救済が叶わなかった世界に還った神がいた…。


「で、その神の骸が大地に落ち、その骸は世界樹を生やし、神はその魂を失っても人の為になる行動を…と」

「何を読んでおる?」

「うーん?」


 角と翼が生え、所謂ゴスロリ服を身に纏っている少女が、右目に眼帯を付けた黒髪の少年へと尋ねる。すると少年は自慢げに本の説明を始めた。


「事実に基づいて書かれ神話?俺が著」

「阿呆め、人共の希望と現実が混濁しておるわ。」

「いや、希望って大切だと思うよ。希望が無ければ明日なんて生きていけないよ。」

「フン…絶望さえ与えないなら人は小さな希望にすがるものじゃ。」


 少年は口を尖らせながらも、分かったと言う。

 …しかし、また御託を並べ始めた為、バッサリ切り捨てられてしまっう。


「もう仕事じゃ」

「人間達には申し訳ないな〜」

「フン…お前も分かっておるじゃろ?これは人間達に…」

「はぁ…じゃあ、始めますか、」


 ◇◆◇


 勇者パーティーは旅をしていた。魔王の情報を集め、討伐するためである。


「にしても…前回の討伐から20年だっけ?ちと、復活のペース早くないか?」

「確かに…グレイさんの言う通りですよね、今までは100年に一度と言うペースだったそうなので…朗らかに異常です。」


 そんな2人の会話に割って入る者がいた、彼こそが魔王討伐のために選ばれた勇者である。


「僕達は人類のために戦うまでだよ。たとえ…この聖剣が目覚めなくても。」


 魔王の異常なまでの復活スピードのせいか、聖剣は目覚めなかった。…聖剣は神が創造したものだから、当たり前ではあるのだが…この者達がそんなことを知るまでもなく、勇者パーティーの僧侶は心配そうな目で勇者を見つめる。


「勇者様…」

「なぁに、そんな顔するなよフィーネ。僕が何とかしてみせるさ!」

「はい…」


 そんな勇者パーティーに怪しい影が忍び寄る。


「勇者の“勇”は蛮勇の勇だった…なんか悲しいお話のラストにもできそうなシーンだね。」

「本当にそう思うのなら、貴様の脳か瞳の何れかは腐っておる。もしくは両方じゃ。」

「え!?ひどぉ!」


 突如現れ、不敬を表す2人の少年少女へと勇者は怪訝な目を向ける。


「いきなり現れその言いよう…聞き捨てならないね。」

「…おっと、これは失礼。」

「君達は誰だい?見た感じ僕達のファンではなさそうだ。」

「此奴が挑発的な態度を取ったことは謝罪しよう。此奴は仕事の前になると、どうやら昂ぶってしまうのだ。許しやれ…とは言わぬが話ぐらいは聞いてくれぬだろうか。」


 それは聞いた勇者は落ち着きを取り戻すが、少女の言葉に引っ掛かり、詰問をする。


「ちょっと待て、仕事と言ったか?…そっちの男の態度を見るに僕達に敵対意識があるようだ。剣を交えたいのなら掛かってくればいいさ。相手をしよう。」


「チッ、脳筋め…やはり、交渉は好かぬ。貴様に任せよう。」

「やーい下手くそ〜」


 眼帯を付けた少年は息を整え、勇者の眼の前まで歩み寄る。


「さっきは失礼したよ。そこの少女の言う通り、仕事の前は興奮しちゃって人が変わるんだよ。だからさっきもセッ…興奮を収めて来たのに…どうやら足りなかったようだね。」

「結局君は何が言いたいんだ?」

「これまた失礼。端的に言おう、そこの僧侶の女の子を渡してくれ。」

「断る。が…理由だけは聞こう。」

「あぁ〜断られるなら理由は言わないよ、無理矢理奪うから。」


 勇者は聖剣を構え、少年は小杖を取り出す。


「魔法使いか…どうやら、そこの少女は戦うつもりが無いようだが…3対1で勝てるのか?」

「あぁ、御心配なさらず。1対1だし、そもそも戦うつもりなんてないしさ。」

「何を…まさか!」


 先程までにグレイとフィーネが居た筈の所には、グレイが倒れているだけであり、フィーネの姿は無くなっていた。


「…!フィーネを何処にやった!貴様らの目的は何だ!?」

「目的ねぇ…まぁ、端的に言えば…聖職者を殺すこと?かな。」

「なに!?まさかフィーネも!」


 途端、勇者が眩い光に包まれ、眼帯の少年へと刃を振り下ろす。


「身体強化か…まぁ、この程度の攻撃など、我にはどうってことないがな。」

「ちょっと『魔王』さん!?危ないだろ?」

「魔王…だと!?」


『魔王』と呼ばれたゴスロリ少女は、勇者が振り下ろした聖剣を片手で受け止め、そのまま勇者を投げ飛ばした。


「フン…悔しければ精々喚けば良い。さすれば、どの国も黙っておらん。何れ誰かが我等を打ち破るかも知れぬ。」

「そーゆーことだし、帰ったら御国への報告よろしく…!」

「ッ…!待て!!」


 勇者が再び襲い掛かるも、一歩及ばず。転移魔法で逃げられてしまった。

 勇者は地面に突き刺さった聖剣を強く握り締めることしかできなかった…。


「クソッ…!なんで…!」


 ◇◆◇


「ほれ…さっさと準備せぬか。」

「いや…ね?だから、その子もう直起きるって…」

「貴様はそれを5分程前から言い続けてるであろう。」

「5分じゃ終わらないから言ってるの…!」


 あまり、聞き覚えのない声の言い合いで目を覚ます。…どうやら、勇者様の前に現れた2人組のようだ、


「あなた方は…」

「あ、ほら起きた!」

「5分は行けた…!」

「5分はやっててもやっていないようなものだよ!!」

「なら、やって良かったではないか!!」

「言葉の綾だ!」

「えっと……」


 目覚めたばかりの自分などお構いなしに言い合いを続ける2人に唖然としていると、角の生えた少女が説明を始める。


「はぁ…すまない。訳あって貴様を拉致させてもらった。」

「拉致ですか?」

「あれ…警戒しないのか?」

「はい、あなた方からは悪意が感じられなかったので。」


 拉致した相手の前で痴話喧嘩をするなど、誘拐犯の行動ではないだろう。もちろん、判断材料はそれだけではないのだが。


「ふむ…これなら直ぐに終わりそうじゃな。」

「あぁ、…俺が説明するのか、」


 眼帯を付けた少年は、先程まで座っていたソファから立ち上がり、格好つけながら口を開く。


「君には、俺達の仲間に加わってもらいたい。」

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