第41話
刃と刃が交わり、光が散る。
二人の呼吸。
二つの心音。
舞台は確かに生き始めていた。
――その時。
天井から、鈍い音が落ちた。
神話の世界を覆っていた闇が、ひび割れる。
舞台の空気が、急に冷える。
影がよろめいた。
先ほどまで神剣の声を響かせていた存在が、片膝をつく。
「……違う」
掠れた声。
人の声だった。
「これでは……足りない」
ゆっくりと顔が上がる。
金の眼は消え、そこにあるのはただの少年の瞳。
乱れた息。
汗。
唇を噛みしめる癖。
童子切だった。
「俺は……何をやっている」
自嘲気味に笑う。
「再演だの、神話だの……そんなものをなぞらせれば、
アマテラスの花婿が生まれると思っていた」
舞台を見回す。
生駒の刃。
石田の刃。
どちらも、確かに輝いている。
それでも。
「この程度では――届かない」
声が震える。
「世界を動かすほどの主役には、ならない」
その言葉に、舞台の温度が一段下がる。
石田が、歯を食いしばる。
「……まだ始まったばかりだ」
童子切は首を振る。
「違う。
“始まってすらいない”」
歩み寄る。
二人の間に立つ。
「お前たちは、まだ自分の刃を振っているだけだ。
己の恐れを越えていない。
世界を背負う覚悟を知らない」
生駒の手が、少し下がる。
「……じゃあ、どうすれば」
その問いは弱い。
だが、確かに求めていた。
童子切は目を閉じる。
「かつて、花婿は奈落に身を投げた。
己の存在を捨て、世界を動かすための贄になった」
ゆっくりと目を開ける。
「お前たちに――それができるか?」
沈黙。
重すぎる問い。
石田の刃が、わずかに揺れる。
生駒は刃を胸の前に戻す。
抱きしめるように。
「……まだ、わからない」
童子切は微笑む。
どこか疲れ切った笑みだった。
「だろうな」
そして背を向ける。
「ならば、まだ未明だ。
この幕は、いったん降ろす」
舞台の照明が、一つずつ消えていく。
最後に残った光の中で、
童子切だけが立っていた。
「答えを出せ。
でなければ――再演は失敗だ」
暗転。
刃の輝きだけが、闇の中で小さく震えていた。
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