第40話

静寂。


瓦礫の舞台に、風も音もない。

ただ二つの心臓の音だけが響いていた。


生駒は胸に当てた手を、ゆっくりと引く。


そこに――確かに“柄”が生まれていた。


見えないはずのもの。

けれど指先は、確かな感触を掴んでいる。


「……いた」


小さく、優しい声。


「ずっと一緒だったんだな」


石田が目を見開く。

観客のいない劇場で、誰よりも強く息を呑んだのは彼だった。


生駒は一歩、踏み出す。


胸から、ゆっくりと刃を引き抜く。


白い光。

朝焼けのように淡く、あたたかい輝き。


金属音はしない。

それでも確かに――抜刀だった。


「俺自身なのに、今さら“よろしく”って言うのも変だけど」


刃に向かって、微笑む。


「これから一緒に舞台に立とうな」


刀は答えない。

けれど光が、少しだけ強くなった。


影――神剣の姿が満足げに頷く。


「よくぞ応えた。

これより未明ギトウ幕・再演、正式開幕」


舞台の床が鳴る。

瓦礫は消え、再び漆黒の劇場へ。

しかし今、そこは“戦うための舞台”となっていた。


石田が刀を構える。


その刃は深い夜を切り裂く色。


「遅いんだよ、生駒」


口元は笑っていない。

だが、その声には確かな昂りがあった

「その刃、見せてもらう」


生駒も構える。

まだぎこちない。

けれど、確かに立っている。


「俺も……お前の舞台を見たい」


一歩。


また一歩。


二人の距離が消える。


刃と刃が、正面で交わった。


火花ではなく、光が散る。


斬り合いではない。

殺し合いでもない。


互いの存在を刻み合う――ギトウ幕。


舞台が震える。

観客なき劇場が、初めて“喝采”のような音を立てる。


石田が低く笑う。


「やっと始まったな。

俺たちのギトウ幕だ」


生駒も笑った。


少しだけ泣きそうな顔で。

それでも、確かに主役の顔で。


「うん。

ここからだよ」


二つの刃が再びぶつかる。


未明ギトウ幕・再演。

その第一太刀が、いま放たれた。

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