第31話
円卓はない。
必要がないからだ。
この劇場において、天下五剣が集まる場所は、ただ“空白”だった。
舞台裏でもなく、客席でもない。
照明も影も届かない、境界の狭間。
最初に笑ったのは鬼丸だった。
「で? 童子切。
次の“花婿”は誰にすんの?」
悪意でも敬意でもない。
ただ面白がっている声。
童子切は目を閉じたまま答える。
「まだ決めていない。
だが必要だ」
鬼丸は楽しそうに肩を揺らす。
「必要ねぇ。
前のは、ずいぶん派手に燃えたじゃん。
奈落送りだっけ? あー、最高だったな」
その言葉に、大典太が一歩前へ出る。
「……今回は、怪我人を出させない」
低い声。
それだけで、鬼丸の笑いが少しだけ止まる。
「舞台は命を削る。
だが削りすぎれば、劇場そのものが壊れる。
守るための再演であるなら、備えが要る」
数珠丸は、静かに数珠を繰る。
「願わくば、次の花婿が、祈りに足る者でありますように。
この劇場が、もう一度“朝”を迎えられますように」
言葉は優しい。
だが、それは“終末”を知る者の祈りだった。
三日月はふふ、と笑う。
「ならば脚本が要りますね。
神話の再演とは、筋書きがあってこそ美しい。
私が書きましょう。
次の舞台が、どんな運命を辿るか……物語にしてみせましょう。」
童子切は、そこで初めて目を開く。
「物語は後だ。
先に決めねばならぬ」
鬼丸がまた口角を吊り上げる。
「だから聞いてんじゃん。
誰にすんの?」
沈黙。
空白の空間に、かすかな“鼓動”が響く。
遠い舞台の下、奈落の奥。
かつて花婿だった存在が、まだ動力として息づいている証。
童子切はそれを聞きながら言う。
「一人では足りぬ。
前の花婿は、強すぎた。
光が強すぎれば、影もまた深くなる」
三日月が目を細める。
「……ダブル主演、ですか」
「そうだ」
童子切の声は、揺るがない。
「次は二人。
理想と現実。
祈りと剣。
相反する二つが並び立つことで、初めて“アマテラスの花婿”は完成する」
数珠丸が小さく頷く。
「陰と陽。
昼と夜。
世界を縫い合わせる縁」
大典太は腕を組む。
「その二人が、折れぬよう守る。
それが役目だよ」
鬼丸は嬉しそうに笑った。
「面白くなってきたじゃん。
で、その候補は?
あの真面目委員長と、優しい夢見がちなやつ?」
童子切は答えない。
だが、その沈黙こそが肯定だった。
三日月が紙を取り出す。
「では決まりですね。
未明ギトウ幕・再演。
新たな脚本を起こしましょう。」
筆先が空を走る。
その瞬間――
遠い廊下で、ギトウ少年たちが“オーディション開催”を聞く声が重なった。
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