第18話
——金属が床に触れる、乾いた音。
その音に、生駒光忠は走り込んできた。
「……っ、児手柏!」
息が切れている。
だが、それ以上に——目の前の光景が、理解できなかった。
床に落ちた短刀。
それを見下ろす清水藤四郎。
そして、震えた手で一歩後ずさる児手柏。
「……なに、してるんだ?」
声が、わずかに裏返る。
「何をしているんだ?!」
清水は、ゆっくり生駒を見た。
「関係ない」
「関係ないわけないだろ!」
生駒は二人の間に、反射的に割って入る。
「刃を向ける理由なんて、どこにもない!」
「——向けていない」
「同じだ!」
生駒は、落ちている短刀を見て、息を呑む。
「……清水。まさか」
清水の声は、冷静だった。
「選択肢を与えただけだ」
「選択肢……?」
「主役として煌めけないなら、奈落へ行けと」
一瞬、
生駒の思考が止まった。
「……は?」
次の瞬間、感情が追いつく。
「ふざけるな!!」
鋭い声が、空間を裂いた。
「舞台に立てないことが、死ぬ理由になるか!」
「——なる」
清水は即答した。
「この劇場では」
生駒の拳が、きつく握られる。
「……ここは、刀を殺す場所じゃない」
「違う」
清水は一歩踏み出す。
「ここは、刀の役目を決める場所だ」
生駒は、児手柏を振り返った。
裸足。
怯え。
それでも、まだ消えていない光。
「……児手柏」
優しく、だが必死に声をかける。
「君は、まだ舞台に立ってない」
「立てなかっただけだ」
清水が遮る。
「それは同じだ」
「違う!」
生駒は、清水をまっすぐ見据えた。
「“できなかった”と“選ばなかった”は違う!」
「……」
「君が決めることじゃない」
清水の目が、わずかに揺れた。
「じゃあ、誰が決める?」
生駒は、即座に答える。
「本人だ」
一拍。
「そして——」
生駒は、舞台の闇を感じ取った。
空気が、変わる。
床の紋様が、淡く光り始める。
——ギトウ(技斗)幕、起動準備。
「……ああ」
清水は、小さく息を吐いた。
「やっぱり、君が来たか」
生駒は、清水から目を離さない。
「来るに決まってる」
静かに、しかし強く言う。
「児手柏を、奈落に送るなんて——
そんな役目、誰にも与えてない」
照明が、落ちる。
舞台が、
“争い”ではなく
“意志をぶつけ合う場”として立ち上がる。
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