day4.5 終わらないクリスマス
同日の早朝
帰りのタクシーの車内で思う。
(もう、二度と会うのはやめよう)
そう決意して、家に着いて一息ついたときスマホが震えた。
『今日はほんとにありがとう。巧とクリスマスを過ごせて幸せだった。』
少し考えて返信。
「今日はほんとにありがとう。俺も楽しかったよ。」
「だけど、ここ最近お金を使いすぎちゃった。しばらく、店には行かないね、ありがとう」
それが、さらなる沼への合図だった。
1時間もしないうちに、スマホが鳴る。
スマホを取ると、午前2時の暗闇に響く、あいの泣き出しそうな声。
『せっかく仲良くなれたのに、どうしてそんな寂しいことを言うの?』
「いや、なんでって.....」
『私たち今日はクリスマスも一緒に過ごして、だんだんお互いのことわかってきたよね?』
「いや、それはそうだけど」
『今日は私のこと考えてくれて、お店の人にも謝ってくれたんでしょ?』
「そうだけど......」
『私ほんとに嬉しかったの。こんなに私のこと考えてくれる人と出会えて.......なのになんで?』
「いや、なんでって......」
そんな問答が少し続いて、
『巧は言葉選んで話してくれるけど、思ってること言ってよ』
俺もらちがあかないなと感じて、
「将来につながることにお金も時間も使いたいんだ。夜のお店に使うのは無駄だと思ってる」
俺が初めてあいに対していった本音だった。
だけど彼女は止まらない。
『そんな冷たいこと、他の人にもいうの?』
「……あいは、友達ではないよね?」
『なんで、そんなこというの?』
「なんでって....」
ループする不毛な会話の果てに、俺は聞いた。
「あいは俺のことをどう思ってるんだよ」
沈黙の後、あいは震える声で言った。
『.....このまま会っていくうちに、自然と付き合うようになるのかなって思ってた。私は、これからだと思ってたのに。今日はほんとに幸せだっったのに.....振られた気分』
その言葉は、俺の防波堤を根底から破壊した。
嫌いじゃない。
むしろ、付き合えるのなら、付き合いたい。
そうじゃなきゃこんな風にお店にも行かないし、こんな時間まで電話にも付き合わない。
夜明け前の静寂の中で、俺の心は完全に屈服していた。
だけど、やっぱり不信感もあった。
「.....あいがそう思ってくれるなら、俺もこれからも一緒にいたいと思うし時間も作りたいと思う。」
「だけど、あいが本当にそう思うなら、店を通すんじゃなくてお互いのお休みが被っている日曜日に普通に会おう。映画を観たり、お茶をしたり、そういう会い方をしよう」
『わかっった.....』
時計の針は3時30分を指していた。
「今日はもう遅いし、明日もお互い仕事でしょ。日曜日で都合がつく日ができたら連絡して。おやすみ」
『わかった.....連絡するね。おやすみ』
電話を切る。
俺は「彼女と真剣な関係になれる」という希望を抱いて、眠りについた。
それが、47万円をはるかに凌駕する「恐怖」への、本当の入り口だったとも知らずに。
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