day1.9 俺はまだあると思っていた
土曜日
約束の当日、俺は大通りの床屋で髪を切り、鏡に映るさっぱりした自分を確認して店を出た。
時刻は20時37分。
(結局、どうなるんだ?)
営業なのか、プライベートなのか。
その答え合わせをする時が来た。
「おわったよー」
20時40分。
返信が来る。
『繁華街の方来れる?』
「お店?」
俺は核心を突いた。
だが、彼女は質問には答えず、代わりに一枚の地図を送りつけてきた。
『【位置情報】場所わかる?』
画面に表示されたピンの位置を確認する。
(ん? お店の場所じゃないな)
前回行った記憶を辿る。
確か、あいの店はこの周辺だったはずだけど、ピンが指しているのは少し離れた別のビルだ。
そこは、1階に飲食店が入っていて、上が宿泊施設の、よくある雑居ビルのはずだ。
(20時40分……。一般的なニュークラの同伴にしては、時間が遅すぎる。この時間から店外で会うなら、本当にご飯だけなんじゃないか?)
「期待」が「確信」に変わりかける。
俺はそう信じたくなっていた。
都会のビル群の雑踏を抜け、冷たい夜風を切り裂きながらピンの位置へと急いだ。
「もうちょい。つくよー」
すると、間髪入れずにメッセージが届く。
『4階にいるよー』
4階?
嫌な予感がした。
さっきのビルなら、4階は客室のはずだ。
俺は立ち止まり、周囲を見渡す。
そして、ピンから少し離れた位置にあるビルに目を向けた。
「なんてとこ?」
『V.N.Sだよー』
(ああ、やっぱりか。)
いちおうスマホで店名を検索して場所を確認してみる。
そこは、送られてきていたピンの位置からは微妙にズレた、今見ているビルの位置だった。
結局、ご飯でも何でもなかった。
「会えるかも」なんて言葉に躍らされ、冬の繁華街を歩かされ、挙げ句の、ストレートな出勤報告。
(結局、営業だったのかよ)
大きな溜息が、白い霧となって夜に溶けた。
普段なら、ここで「じゃあ帰るわ」と引き返していたはず。
だが、ここまで来てしまったという「コスト」と、どこかであいの不思議なペースに毒されていた俺は、なかば自嘲気味に笑った。
(まあ、いい。ここまで来たんだ。1回くらいは付き合ってやるよ)
「あー了解」
『入口であいって言ってね!』
「はいはい」
俺は一回深呼吸をして、スマホをポケットに放り込み、夜の店へと足を踏み入れた。
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