第8話 クラウディのちサイクロン
「お、俺はどうすれば……」
「儂と話でもせんか? 時間はあるんじゃろ。 異文化交流会といこうか」
青震の言葉で、どこかに飛んでいた思考がゆっくりと戻ってくる。
「そう、しますか」
「まずはお互いを知ることから始めようか」
主従関係を結んだ青天狗の青震が一呼吸置いて話し始める。
「儂らは昔、フォリスという名の惑星に住んでおったんじゃが、生命が活動するには厳しい環境に変わってしもうての。宇宙船に乗って惑星を捨てて逃げ出すことにしたんじゃ」
青震が語る船のことを水上を渡航する乗り物だと思っていたヒサトは勘違いを訂正する。
「故郷を捨て、このラニブラという仮想世界に降り立った日をラニブラ歴の1年目として制定し、今はラニブラ歴321年じゃ。儂らは321年間宇宙を彷徨うておる。ちなみに1年は360日、1月は30日、1日は24時間じゃ」
ヒサトは時間の感覚が地球とほぼ同じで安堵する。理解しやすく、イメージが容易だからだ。
「321年……。ラニブラ以外にも仮想世界があるんですか?」
「仮想世界はここだけじゃ。 皆ここで活動しておる」
「皆? 仮想世界にいない人だっているでしょう? その人達はどこにいるんですか?」
「そんな者はおらん。例外なく全員ここにおる」
「仮想世界内で活動するかしないかは各個人の自由じゃないんですか?」
選択の余地がない。それはまさしく強制である。そのやり方は褒められたものではなかった。
「故郷を去った後、全ての生命体は冷凍睡眠装置に入って仮死状態になっておる。冷凍睡眠装置と仮想世界の装置は繋がっておるから、皆、意識だけをこの世界に移すことができるんじゃよ」
肉体の機能を停止させ、仮死状態にすることで老化を防ぎながら長期間眠らせている。そんな技術は映画やSF小説の中でしか聞いたことがない。
「だから強制なのか。 じゃあ321年前の人たちは……」
「まだ生きておる。そしてその者達がこのラニブラの世界で活動しておるのじゃ」
絶句するヒサトの呆然とした表情に、青震は心配しながら更なる追い打ちをかける。
「おぬしはどうやってここに来たのじゃ? フォリス人は肉体の解凍と同時にこの世界から出られることになっておるが、おぬしの体もここの装置に入っておるのか?」
「いや、装置に入った記憶はない」
「少し待っておれ……。いや、おぬしも一緒に連れて行こう」
「連れて行く? どこに?」
「冷凍庫」
視界が急に飛ぶ。感覚としてはVRゴーグルを使用した感覚に近い。
そこは先が見えない暗闇の中だった。個々で発生する無機質な機械音が反響し、より大きな音となって返ってくる。その他の雑音は一切ない。至るところで点滅する人工的な小さな光が蛍のように光っては消えていく。
「ここが冷凍睡眠装置の主要施設じゃ。……やはり冷凍されている者に増減はないの。14,142,135,622体のままじゃ。戻るぞ」
視界が戻る。
そんなバカな。あの数字に近い数字はさっき見た。腕に刻まれていたあの番号だ。ただあの番号は
――14,142,135,623
1体多い。
「おぬしと契約した時にアバター情報を読み取っておるんじゃが、肉体との繋がりというか、紐づけがされておらんかったから気になっておったのじゃ。保管している検体数も変わっておらん。ということは……」
「言うな!! それ以上口にするな!!」
張り裂けるような叫び。ヒサト自身、出したことがないような声だった。
呼吸が浅く、小刻みに胸が上下する。
事前に読んだゲームのあらすじとは異なるストーリー。それに全く反応がないログアウト機能。
理解できない。
今までのゲームでは考えられないくらい、技術の革新的な飛躍。
理解などしたくない。
「これはゲームの設定だ、そうだろ!! そうだと言えよ!!」
青震に近寄り服を掴み、声を荒げる。
「……時間は十分にある。落ち着いてゆっくりと今後のことを考えるといい」
青震はヒサトの震える手を掴むと、優しく服から引き離した。
ヒサトは膝から崩れ落ち、そのまま両手を地に付けて体を支える。
「うあああああああああああああああ」
現実に戻ろうにも体が存在しない。すなわち、この世界でしか生きられない存在にほかならなかった。
青震は静かに踵を返し、巨樹の方に向かって歩いて行った。
「主人よ、すまぬ。おそらく急に出現した18万人は同郷であろう。いつか伝えるゆえ、今は黙っておく儂を許しておくれ」
◆◆◆◆◆◆
「もう戻れないのか……」
背中を地面に密着させ、空を眺めながら小さな声で呟く。
「家族とめぐみは悲しむだろうな」
生物学的には死んでいる。
気になっても確認することはもうできない。
「これからどうすればいいんだ……」
日本への心残りは殆ど無い。毎日学校に行って授業を受け、終わったら家に帰る。これといってやりたいことも無く、自分の将来像さえ浮かんでいなかった。
頭は良いと言えるほど優れているわけではない。何らかの才能があるわけでもない。色々な言い訳を準備して自分で追い込み、諦めていた。
この世界にも人はいるようだが、ここがどんな世界なのか全く知らない。日本と同じように安定した毎日を過ごすことができるのだろうか。
今まで両親に助けられていたからこそ今の自分がいる。言葉にして伝えたことはないが非常に感謝していた。その両親はもういない。いや、両親どころか知り合いは誰一人いない。そんな世界で生きていけるのだろうか。
お腹にしっかりと酸素を溜め込むように空気を吸い込み、そしてお腹から押し出すようにゆっくり吐き出した。
「もっと情報が欲しい……」
ヒサトは青震を頼るべく巨樹に向かった。
ディバクレイン 小野でん @gaaaaa555
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