第4話 不思議球

 職業を決めると次は独自性を持たせるためにキャラクターの顔、髪型や肌の色を決める詳細設定に移る予定だったのだが。


「……ん?」


 パソコンの電顕が急に落ちたかのように、目の前が突然ブラックアウト。

 すると、黒で塗りつぶされた空間から野球ボール大の大きさをした光の球が降りてきた。


 日惺の視線は光の球に固定される。


「キャーッ。ひっさしぶりの新規参入者だー」


 ピカピカと緑の光を放つ球から音声が流れる。


 ゲームが発売されて約10ヶ月。今なお登録者数は増えている。それなのに「久しぶりの新規参入者」とはどういうゲーム設定なのだろうか。頭の中で疑問符が浮かび上がる。


「まあ、そもそも私達にそんな時間感覚は持ち合わせていないんだけどね。テヘッ。さて。それでは気を取り直しまして。スキャン」


 日惺を中心に、円形の光の環が下から上に通過した。


「じゃあヒサトくん。今からこの世界に合うようにアバターを調整するね」


「どういうこと?」


 そもそもキャラ設定でこんな球が出現するなんてどのサイトにも載っていない。


 ネタバレ防止で書き込まれていなかっただけなのか。それとも隠しルートに突入したのか。

 球から視線を外し、周囲を見渡す。しかし周囲は黒一色で球以外は何も見えない。


「そ、れ、は。私がいい感じにイジっちゃうってことで~す」


 そう言い終わると日惺に向かって突っ込んで来た。


「えっ? あっ、ちょっ、なにを……」


 思わず防御態勢を取って身構える。だが、待てども衝撃は何一つ来ない。

 

「ここをあーして、こーしてっと」


 来たのは衝撃ではなく、身体の内部から聴こえる音声だった。


 日惺はどうしていいか分からず困惑する。


「あともうちょっとだよー。あそこをこーして……。はいっ、でっきましたー!! いやぁ、久しぶりだからちょっと張り切っちゃったよ」


 日惺の中から飛び出る光の球。波に乗るボールのように緩やかに上下左右に揺れる。さながら達成感を味わっているかのように。


「いや、自己満足してないで何をしたのか説明してくれよ」


「だからさっき伝えた通りだよ!! 今からこの世界に合うようにアバターを調整するって」


「いや、なにその設定。意味わかんないんだけど」


「えっ? 今の説明で解らなかったの? ど、どうしようー。こんなに頭がわる……弱いコ初めてだよ~」


 急に明滅しながらせわしなく動きだす球。


(あれ? もしかして今ディスられたのか? しかも言い直してるし。芸がこまかいなっ)


 まだキャラクター設定の段階である。

 日惺はこのやり取りが何かの条件を満たした際の決められた仕様であると判断し、


「もういいや。それで、俺の今の姿ってどうなってんの?」


 話を区切って別の話題にもっていく。


「姿? こんな感じだよー」


 人物像が3Dホログラムによって浮かび上がる。

 ピンと伸びた背筋に鋭い目つき。身長は170センチメートルくらいの黒髪、黒瞳の少年。


「そ、そのまんま俺じゃねーか」


 遊び心が一切ない現実そのもの日惺の姿であった。


「そりゃそうでしょうよ! これがあなたなんだから」


「いや、俺は髪を金髪にしたり、瞳の色を変えたいんだよ!」


「最初の設定でそれはムリで~す。あとはアッチの世界で勝手にやってよ。それじゃあ行ってらっしゃーい」


 その数秒後、日惺の視界に入ってきた光景はログハウスでよくある丸太を積み上げて出来た壁だった。


「はっ? キャラの詳細設定は??」


 杜撰なキャラクター設定に失望を覚えると、ログアウトしてリセットという考えが頭をよぎる。


――シュッ


 背後で聞きなれない音が鳴り、ネガティブ思考が妨げられた。


 振り向くと、日惺に剣の切先を向ける一人の男性。


「名は?」


 壮年の男性にとって剣を他人に向ける行為は何でもないことのように、ごく普通の口調で話す。


 肌にまとわりつく暖かい空気が一瞬で冷める。


 日惺は現実世界と変わらず肌に感覚がある詳細な設定で歓喜し、思わずニヤリと笑みを浮かべた。

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