第11話

「やはり、見分けられなかったか」



 月面に、しわがれた老人の声が吐き捨てられる。


 そして、時節鼻を啜りながら、泣きべそを掻いている女性の横顔に対して、肩を落とした。


 せっかく、まだ年端もいかない少女の、身を捧げる決断を尊重したというのに……。


 いざ手助けをしたら、たださめざめと涙を流してばかりだ。


 少女の決断を讃え、一つだけの我儘を叶えたというのに、結局徒労に終わってしまった。こちらの手を煩わされた事も相まって、老人は少女を戒めた。


「だから言ったろう。あんな奴に期待なんてするな、と」


 しかし、女性の泣き声にすぐさま覆われ、厳しい物言いはすぐに霞んでしまう。


 老人は、低く、唸るような溜息をした後、それきり姿を消してしまった。


 一人泣き濡れる、女性の横顔を残して。

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月は綺麗なんかじゃない。 @anything

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