第10話

兎は満月の日に、死んでしまった。まあ、当然だろう。


 あんなに餌食べなかったんだから。最高級な兎の餌だったのに……無駄遣いだよ、完全に。いや、どうでもいいか、そんなこと。


 今度こそ、今度こそ瑠奈の好きにさせてあげよう。月になるんだったら、なってくれ……。 

 もう、俺は瑠奈の邪魔はしない。


 兎はペット嫌いの両親たちに内緒で飼っていたため、空き地で火を焚いて遺体を燃やすことにした。瑠奈の日記も。


 手元に持っておくのは、心持ちが良くない。これは、瑠奈のものなんだから、瑠奈に返すべきだ。パチパチと燃え盛る炎にウサギを入れ、燃やす。次は日記だ、と入れようとしたが、ふと手を止めた。


 これは最初から最後まできちんと読んだ方がいいかもしれない。


 今後、自分の都合で誰かの価値を潰さないために、戒めとして読んだ方がいいかもしれない。多分、不満が沢山綴られていると思うし、


 それに……瑠奈の事を考えるのは、もうこれで最後だと思うと、日記を手に取りたい。


 ああ、やっぱり俺自分勝手だなぁ。

 ごめん、もうこれきりにするから。

 許してくれ、瑠奈。


 俺は日記のページをめくった。


 不満が大量に綴られていたが、最後のページにこんなことが書いてあった。



 『ここまで不満を書いたけれども、私はケンちゃんのことが好きっていう気持ちは、あるんだ。

 

 方法はどうあれ、ケンちゃんはいつも私の事を気にかけてくれたし、大切にしてくれた。

 

 月にはなりたい。でも、月になったらケンちゃんのそばにはいられない。

 

 私は幽霊から皆を守って幸せにさせるような象徴になりたいけれど、そのためにはケンちゃんを捨てなければならない。

 

 神様も、ケンちゃんの事は良く思ってないようだ。玄関に神様がいるのに驚いて、固まらなければ良かった。その後のケンちゃんの態度に、我慢ならなかったらしい。

 

 神様は私が月になる、ということを、この頃頻繁に知らせに来てる。

 

 でも、神様はケンちゃんの発言に、ご立腹だ。神様はケンちゃんに罰を与えようとしたけど、神様に何とかお願いして止めた。


 そして、私の悩みもそこで打ち明けた。神様は慈悲の心をくれた。兎になった私をケンちゃんが満月までに育て上げるか、私だと分かったら、月になってもケンちゃんの側にいられる。


 だけど、できなかったら私はケンちゃんと引き離される。ケンちゃんだけ私の記憶を残して。


 こんな事になっちゃって、ごめんね、ケンちゃん』



 俺は気づいたら膝から崩れ落ちていた。こんなことって……。何もかも、遅すぎたんだ……。



「バイバイ、ケンちゃん」



 瑠奈の声が上から聞こえた。見上げると、月の影が見慣れている兎から女性が涙を流している横顔に見えたような気がした。

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