第9話

『ケンちゃんは分からずやだ。


 私は神様が見えている事を訴えているのに何も知らない。


 それに、お父さんもお母さんもケンちゃんも、私を何にもできない役立たずだと思ってる。


 私は神様のお手伝いをして、人間に害を与えそうな幽霊さんたちの悩み事を相談しているのに。


 一人で朝起きられるし、ケンちゃんが積極的に話しかけなくても過ごせるのに。私は小さなお子様じゃないよ。


 高校生だよ。本当に鬱陶しい。早く月になりたい。神様に相談したら、月にならせてくれるんだって。


 月になって、やっとケンちゃんとさよならできる』



 何度も何度も、その部分を繰り返し読んだ。視線だけで、紙が擦り切れてしまうのではないかと思うくらいに。


 文字は朧げになっているが、紛れもなく瑠奈の文字だった。俺は自室まで一目散にかけて行った。


 そして、ベッドへと潜り込み、荒れる息を整えようと枕に顔を埋めた。


 瑠奈に、全部尽くしてきたのが仇になったのだ。


 瑠奈のことが好きで、瑠奈のために身の回りの世話をしたり、浮かないように身の振り方も教えた。


 何にもないところを見たり、話したりする姿は確実に浮く。自分のありのままの姿を、俺以外に見せたら、必ず爪弾きに合う。現に、瑠奈は俺が側にいないと、ずっと教室に一人だ。


 だから、くだらないと、ダメなことだと再三言っていたが、伝わらなかったのだろうか。


 いや、違う。伝わってはいた。それが、瑠奈にとってはいらないものだった。


 瑠奈のためだと思っていたことが、全部自分のことだったのだ。


 瑠奈に離れてほしくない、普通の子になって、俺の隣にいて欲しい。そうすれば、俺は安心する。なんて身勝手な考えだろうか。


 サヨナラされて、当然だ。手を握り締めると、ぐしゃりと日記がひしゃげた。どうやらそのまま、持ってきてしまったらしい。


 瑠奈のお父さんに、ちゃんと借りると伝えただろうか。この間みたいに、勢いだけで行動していないだろうか……。念のため、確認とかお詫びとか、なんか言った方が……。


 身の振り方の思考が駆け巡りあれこれ施策を練ったが、体力と精神が限界に達したらしい。


 ふつり、と糸が切れた感覚と共に、ベッドへますます身を沈めた。


 もう、いいや。どうでも。


 そのまま俺は枕に顔を埋めた。兎の事は、頭の隅に追いやって。

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