第4話

 クラスに一緒に着くと、瑠奈はさっさと席に座ったので、俺もついて行って隣に座った。


 後ろから今日も夫婦はお熱いねーなどと言う野次が聞こえてくるが、無視している。  


 瑠奈も気にしてないようで、本をパラパラとめくっている。


 題名に『今昔物語』と書いてあった。またそんな幻想的なものを……。


 呆れて別の実用的な本を薦めようとした矢先、女子達が群がってきた。


 甘ったるく、何かと媚びたような声色で擦り寄られる。


 最初から、耳を傾ける気力はない。


 群がっている奴らの戯言は、右から左へと流れ出て、飽和していった。


 ウザい、俺は瑠奈と話したいんだ。


 自分をよく見せようと、化粧や香水やらで塗り固められた見栄に吐き気がする。言葉すらも自分を魅せることは一丁前で、実質中身は何にもない。


 だが、それを愛想笑いでまともに聞いているフリをする、自分がより一層吐き気がする。


 隣にいる瑠奈を、横目に見つめる。


 何も着飾っていない、ありのままの姿だ。


 制服は、相変わらず綺麗に着こなしているとはいえない。朝、俺が綺麗に直したスカーフは、力なくへたり込んでいるように見える。


 凛々しく前を向いておらず、ただ好きなもの……手元にある、幻想的な本を、ただ見つめている。


 自分の好きがあり、好きなものを好きと堂々とできる姿。


 それが俺にとって、どうしようもなく愛おしく、かつどれだけ手を伸ばしたとて、届かない。


 見るに堪えない不恰好な感情を見つける度、乾いた笑いを心の中で漏らす。


 せめて、俺だけが見えるとこでやれよ、そういうのはさ。


 これ以上瑠奈を見ていると、聞く事に集中出来そうにない。一目見ただけで、歪な形だと誰もが指差す感情に蓋をし、愛想良く人の話に耳を傾ける。


 上手くあしらう事も、断る事も、出来ないまま、ただ貴重な休み時間を食いつぶしていく。


 早く終われ、この、生産性のない時間。

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