第3話
「わぁ〜、いい匂〜い」
瑠奈がパジャマ姿のまま、キッチンに入ってきた。すかさず、瑠奈のお母さんが眉間に皺を寄せ、瑠奈の前に立ちはだかった。
「ちょっと、瑠奈。いつまでパジャマでいるのよ。制服に着替えてきなさい」
「え〜……分かった」
「制服、ちゃんと着られるか?」
「着られるよ〜」
ついて行こうと、瑠奈の後を追った。階段の一段目を登った時、瑠奈が眉を顰めて振り返った。瑠奈のお母さんと、顔が似てきたな。
「ケンちゃん、流石にちょっと……」
「何? どうしたんだよ」
「……着替えに行くんだよ、ついてこないで」
瑠奈がそっぽを向いて、俺を突き放す。最近、反抗的な態度ばかり取るな……保健の授業でやった、第二次成長期というやつか。
……ここで俺が無理矢理行ったら、無駄な争いが起こる気がする。時間が限られている朝で、そんな事には使いたくない。
「着替えに行くの忘れて、パジャマで降りてくんなよ」
一応釘を刺しておいた。瑠奈なら、やりかねないからだ。瑠奈は早々と踵を返し、二階へ登っていった。
「瑠奈ったらお年頃になっちゃって。健ちゃん、朝ご飯先食べちゃって」
「ありがとうございます」
布巾で手を拭きながら、後ろから声を掛けてきた瑠奈のお母さんに、笑顔を貼り付けて挨拶する。
……前までは、着替えるの手伝わせてくれたのに、段々と拒絶するようになったな……。
ぼんやりと置いてけぼりにされた感覚を味わいながら、俺は食卓に席をついた。
そのまま俺は、瑠奈の家で朝ご飯を食べるのが恒例だ。朝ご飯を食べていると、スカーフを曲げた制服を着て瑠奈は席に着いた。
「おい、瑠奈。スカーフ曲がってる」
「んー、ごめん……」
スカーフを直したり、頬についてるご飯粒を取ったりなど甲斐甲斐しく世話していると瑠奈のお母さんが微笑ましいと言いたげな視線を送る。
次に出てくる言葉は、目に見えている。
「仲が良いわねぇ、二人とも。健ちゃん、早くこっちに来て欲しいわぁ。そうすれば、瑠奈も安心よね」
いつものように笑顔で流す。本当にそうなったら最高だよな。隣に座る瑠奈を見ると、味噌汁を少しずつ口に含んでのんびりと食事を取っている。思わず、ため息をつきそうになる。
俺は早く食べ終わったからいいものの、瑠奈はいつも遅刻ギリギリまでかけて朝食を食べ終わる。そのせいでけっして遠くない玄関まで走らなければならない。
「早くしろ、瑠奈! 遅刻するぞ!」
「待って待っ、て……」
遅い足取りで駆けてきた瑠奈は何故か玄関の方を見て硬直した。何やってんだ、一体? あ、まさか……
「おい、また何かいるとか話すのか? 朝からそんなの出ないし、そもそもそんなのまやかしだよ」
瑠奈は目を丸くして俺をみた。小さい頃から不思議ちゃん発言をする瑠奈には雑に付き合う時もあるが、今は学校に急ぐ時間だ。バッサリと切り捨てた。瑠奈は暫く瞬きしながら玄関と俺を交互に見ていたが、「そうだね」と、苦笑した。
俺は玄関ドアを開く。空は晴れやかだった。
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