第2話
「おーい、起きろよ瑠奈」
俺はいつも通り、朝が弱い瑠奈を起こしに行った。ベッド傍の小窓から差し込む朝日が瑠奈の丸顔を際立たせ、満月を連想させるほどだ。
そのまま二、三度声をかけ続けると、瑠奈は長い睫毛を瞬かせ、仰向けのまま身体を弓形に沿った。思ったよりしなやかな身体に、目を逸らす。
瑠奈はそんな俺の様子を気にかけもしないで、寝ぼけ眼を摩る。やっと、俺を見た。
「ケンちゃん、も少し……」
話すだけで人を癒すような優しい声は、未だ眠っているようだ。その証拠に、寝起き特有の掠れ声しか出ていない。俺は瑠奈を完全に起こす為、布団を剥いだ。
瑠奈の世話をするという程で、瑠奈が俺だけに見せる、無防備な姿を見るために起こしに行っているのは、物心ついた時からしている。
「おい、早く起きろよ。おばさんにどやされるぞ」
「ん〜分かった〜」
手を引っ張って、瑠奈をベッドから引き剥がすと、顔を洗いに行かせた。まだ完全に起きてない身体をゆらゆらと動かしながら、部屋を出て行った。
俺も、その後を着いていく。覚束ない足取りで階段を降りる姿は危なっかしいが、同時にこんな姿を見るのは後にも先にも俺ぐらいなんだな、と優越感が湧いてくる。
洗面所に向かう瑠奈を見届け、キッチンに入ると、瑠奈のお母さんが朝食を作っていたので手伝った。
「あら、いつも悪いわ。健人くん、ゆっくりしていいのよ」
「いえ、大丈夫です。これくらい、いつもの事ですよ」
「しっかりしてるのね〜。ほんと瑠奈にも見習って欲しい」
「瑠奈も瑠奈で、良いとこありますよ」
一応表面上、瑠奈のフォローをする。瑠奈の良いところは、正直に言うとあまりない。
例えば俺と同じ読書が趣味だが、こっちは新書や現代ドラマ調の小説を読むのに対し、瑠奈はファンタジーやSFなどと言った非現実的なものを見て空想に耽るのだ。
昔っから、あいつはそう。お月様になりたいだの、何かが見えるだの、そんなことばっか。だからクラスで浮き気味だし、加えてあのマイペースさが玉に瑕だ。
瑠奈のペースに取り込まれずに、まともに自分を維持できるのは俺しかいない。俺の本音はこんな感じだが、それを瑠奈のお母さんの前で言うつもりはない。
不快な気分にさせる事は目に見えているからな。本音と建前ってやつだ。
でも、そんな抜けている所が可愛いなんて思ってしまうのは惚れた弱味だ。物心ついた時から、そんな瑠奈が好きだった。
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