プロローグ2

ご主人に愛されない世界

そんな世界はどうなってもいいと

そう、思ったんだ—————


—————2221年


…人々は脳とAIを融合させる事で、知識や技術を瞬時に得る。

だが、金が無く、それが出来ない者達を「脳無し」と呼び、虐げた。


冬 とある港町の夜


煌びやかなネオンの灯りが、凍える街を色とりどりに染める中

「脳無し」である私は、裸足で唄う。

傷だらけの黒いねこ「月影」を抱き、誰も居ない凍える路上で声を響かせる。

日銭を稼ぐ為に…

最後の音が白い吐息と共に消え、月影に語り掛けた。


「人…全然居ないね…」

月影は口を動かさず、心に直接響く声で答えた。

(…そうだな。でも、今日は稼いだ方じゃないか)

缶の中には、僅か3枚の硬貨

冷たい金属を、手に乗せる。


「ねぇ、月影。お金って…なんなんだろうね」

(…どうした、急に。また哲学か?)

「うん、時々ね、思うんだ。何で、みんなそんなに欲しがるのかなって」

相棒は瞳を閉じた。

(…一般論だが、旨い物を食べたり、旅行したり、あっても邪魔にならない、安心にも繋がる。そんな物なんじゃないのか?)

「それは、そう、なんだけどね……」

冷たいネオンの光が私達を色とりどりに染めていく。


「世の中の嫌な事ってさ、ほとんどお金が原因なんじゃないかなって、思うんだ」

少し間を置き、ぽつりと

(…まあ、そういう見方もできるな)

相棒は続けた。

(…戦争だって、表向きは“正義”だの“信念”だの言ってるが、突き詰めればただの金銭トラブルだ)

戦争が金銭トラブル?

予想の斜め上の回答に、思わず苦笑した。


「あはは、それは言い過ぎかもだけど…」

「でもね…」


月影と向き合い、首元の冷たい金属に指を這わせ、白い吐息を巻き上げた。


「私はね、月影と一緒なら、どんなとこでも幸せだよ?」

(…)

「どんなみすぼららしい家でも豪邸になるし、質素なご飯だって、ご馳走になる。

これってオカシイのかな?私が脳無しだから?」

(…)

「ねぇ…答えてよ、月影…」

しばらく沈黙した後、赤い瞳をゆっくりと開き


(…お前は、間違っていない)

「…」

どこか…苦しそうに続けた。

(…ただこの世界は、どうしようもなく汚れた者によって…支配されているのだ)


冷たいネオンから、楽し気な声が聞こえてくる。


「そう、なんだね。じゃあさ…もしもね…」


みゃぁ~


言いかけた私の足元に一匹の痩せたねこがすり寄って来た。

膝を折り、その頭に手を添える。

ゴロゴロと喉を鳴らし、私の膝に小さなお尻を乗せた。

指先で、その喉に触れながら


「ねぇ、月影。もしも…この子が世界を征服したら…どんな世界になるんだろう?」

(…それは、興味深いな)


凍える空を、白く染めた。


—————きっと、みんな笑顔に…なれるよね—————



ねこの世界征服




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