第10話 押し返す力

 ダンジョンを進む。もう何日も中で狼を狩ってるので慣れたもんである。


 入って最初に襲ってくる狼三匹。しかし姿を現した直後には首に矢が突き刺さり、残り二匹だ。

 二方向に分かれようとする狼の前に飛び出し、一匹の首をナタで薙ぎ払う。重い刃が肉を裂く感触が心地いい。

 トラルが最後の一匹を盾で受け止め、ナタで頭を叩き割る。それで終わりだ。


「フレアの弓が凄いな。向かってくる狼の首なんてどうやって狙ってるんだ?」


「あんまり考えずに射ってるんだけど、なんか当たるんだよね」


「流石だなフレア!」


 トラルはいつもフレアをベタ褒めだ。それにしても当たり過ぎじゃないか?矢が曲がってるように見えることがあるぞ。

 矢筒に入ってるのは削っただけの木の矢だ。それで毛皮をぶち抜いてるのも凄い。今日は鉄の鏃も持ってきてるが、それはあの白い子犬用。あっちの方が柔らかそうだけどな。


 道中の部屋でも苦戦は無い。連携で一気に片付けて、毛皮と牙を拾いつつ奥へ。

 毛皮はそこそこ出るんだよな。結構丈夫なので、時間があるなら服も作ればよかったんだが、宝箱が無いから収入が無いんだ。

 ダンジョンでの練習も午前中だけだし、パンも既に無い。時間をかけてたら俺たちが干上がっちまう。あの頃のダンジョンが懐かしいぜ。


 まぁそれもこれも、こいつを倒してどうなるかだ。

 あの大きな部屋に着いた。白い子犬の部屋だ。俺たちは壁際に身を寄せ、そっと中を覗き見る。

 白い子犬は中央で丸まって寝てる。可愛い。


「あれか。ほんとにあんなのが強いのか?」


「強いっていうか賢いんだよ。何度も話しただろ」


「見た目は可愛いから気持ちは分かるけどね」


 前の時は寝てたりしなかったのに、ずいぶん気を抜いてるな。

 ん?気を抜いてる?それって……


「なあ、今まで魔物が寝てたり気を抜いてるのなんて見たことあるか?」


「知らねぇな」


「外でスライムが退屈そうにしてるのは見たことあるけど……」


 不思議だな。あいつは他の魔物たちとは違うようだ。


「まぁとりあえず、気を抜いてるなら外から矢を射ってみようぜ。無理だとは思うけど」


 フレアが嫌そうに頷いて木の矢を番えた。軽く射た様に見えるのに真っ直ぐ白い子犬に向かう矢。てか途中で加速してないか?

 矢は白い子犬に迫るが……近づいたところで急に失速して床に落ちる。


「納得いかねぇな。あっちは普通に出てきたくせに」


 既に他の部屋でも試していたがすごく理不尽だ。これがダンジョンのルールってやつなのか?


「それより、目覚めたみたいだよ」


 文句を言っても始まらないな。俺はナタを強く握り直した。


「行こう。作戦通りだ」


 部屋に足を踏み入れた。同時に白い子犬が一声吠えると、黒い霧が湧き、灰色の狼が次々と生まれる。数は十二匹。すぐに俺たちを半円に囲む。

 俺達はそれに対抗して、フレアを間に挟んで背中を合わせた。


「フレア!」


 白い子犬に向けてフレアが矢を放つ。鉄の鏃が光り、白い子犬を狙って飛ぶ。しかしそれを正面の狼が体を張って止めた。矢が肉に深く食い込み、狼がよろける。


「邪魔するな!」


 俺は一気に前に出てナタを振るう。傷ついた狼の首を一撃で跳ね飛ばし、振り返りながら周囲を伺った。


 俺が前に出たのを隙と見て、両側から狼が飛びかかってくる。狙いはフレアだ。

 だがフレアは動じず、無視して前に走り出した。走りながら弓を構え、白い子犬に牽制の矢を放つ。鈍く光る鏃は白い子犬が吠えようとした隙に迫るが、それを他の狼が盾になるように飛びついて再び防いだ。


「いいぞ、フレア!」


 俺とトラルが同時に動く。フレアに釣られて前に出た左の狼を俺が、右の狼を追いついたトラルが仕留める。その間に白い子犬が吠えて一匹召喚された。倒してもまた増える、それなら増えるより早く減らしちまえばいいんだ。


「速攻だ! 押せ押せ!」


 フレアは前に詰めながら射撃の手を止めない。白い子犬は下がりながら狼達を盾にするが、壁になる狼がどんどん減って行く。鉄の鏃は一撃で狼に致命傷を与えた。

 フレアの姿はまるで歴戦の戦士だ。走りながらのめちゃくちゃな体勢で矢を放ってるのに、まるで矢が意志を持って飛んでるみたいに見える。


「すげぇ、フレア!決めちまえ!」


 フレアの速攻で円陣が崩れた。白い子犬には指揮をとる余裕もなく、狼たちはバラバラにフレアを狙うが、それを俺とトラルが対応して更に数を減らした。

 もう盾にする狼は残ってない。後ろの狼も倒れ、後は白い子犬を残すだけ。


『ギャン!』


 ついに一本の矢が白い子犬の腹に食い込んだ。甲高い悲鳴を上げて白い子犬がよろけて倒れた。

 もらった、俺達の勝ちだ!

 勝利を確信してナタを握り締める。苦しませる必要はない。


「動くなよ、一撃で終わらせてやる」


 白い子犬の目が俺を捉える。怯え?怒り?激しい感情を感じさせる目。これまでに見た魔物たちには無かった、魂のゆらめき。

 だがこれは戦いだ。ナタを振り上げようとした瞬間――


『ガアアアアアア!!』


 白い子犬が急に吠えた。声と共に放たれた衝撃で思わず怯んでしまった。


「あんちゃん下がって!何かが流れ込んでる!」


 フレアの叫び声が聞こえる。立ち尽くす俺の前で、周囲から吹き出した黒い霧が白い子犬に吸い込まれ、その姿はみるみる間に巨大な白狼となった。

 見上げるほど大きな化け物だ。白い毛皮は冷たく光り、目は青く輝く。


 白狼が首をわずかに傾け、こちらを見下ろした。

 青い瞳が、底なしの湖のように静かに俺を捉える。

 その視線に射抜かれ、全身に何かが走る感覚があった。


 そして――


 くるり。

 巨大な体が滑らかに、優雅に旋回した。

 次の瞬間、視界が真っ白に塗り潰される。


 尻尾だ。

 真っ白な尻尾が、まるで壁が倒れてくるかのように、しなりを加えて迫ってくる。


「――っ!」


 俺は反射的に地面を蹴り、横っ飛びに転がった。

 尻尾が空を切り、地面を抉った衝撃で土煙が爆発的に舞い上がる。

 その煙の中で、白狼はゆっくりと再びこちらに向き直った。


 白い巨体が俺の思い上がりを正面から受け止める。

 これが本当のダンジョン、本当の「敵」なんだ。


『アオーン!』


 白狼が一声吠えた。部屋が震え、空気が重くなる。

 第2ラウンドの始まりだ。





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2026年1月14日 14:50 毎日 14:50

俺は今日もパンを拾いにダンジョンへ通う 無職無能の自由人 @nonenone

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