第9話 押す力
翌朝。今日も気持ちのいい朝だ。三人でダンジョンを攻略することになったし、頑張っていくぞ!
「あんちゃん、もう痛くないの?」
「ん?あぁそういえば怪我が……あれ、もう治ってるな」
腹をめくっても腕をめくっても何も残ってない。かさぶたすらないぞ。腫れるのを覚悟していたが助かった。
「前はこんなことなかったし、やっぱりダンジョンで体が強くなるって話は本当なんだろう」
「それは知ってるけど、そんな急に強くなるの?だったらみんな行きそうだけど」
「じゃあ俺が特別なのかもな!」
ずいぶん治りが早いが困ることじゃない。むしろこれからも多少の怪我は気にしなくていいなら気楽じゃないか。
それより朝飯だ。最近は前日に拾ってきたパンをそのまま食っていたが、今日は朝から火を起こして麦を炊いた。ダンジョンドロップに頼った生活は駄目だと実感するなぁ。
「パン食いてぇなぁ」
「また取れるといいね。砂糖もね」
少々貧相な、少し前までは当たり前の食事を済ませたところで外から声が聞こえた。
「お~い!武器持ってきたぞ!」
「おう。あ、ナタか。いいモノ持ってるな」
「おはようトラル」
「おはようフレア。ナタが二本あったんだ。家でも使うもんだが、まぁとりあえずこれを使おう。一本はニゼクが使うか?フレアは武器あるのか?」
「おぉ!ナイスだトラル!頼りになる男!」
大ぶりのナタを二本持ってきてくれた。刃がゴツくて長い、重みで枝を払ったり何でもぶった切るヤツ。
こんな田舎の村ならどこの家でもありそうな、でもうちには無かった一品。二本も出してくるとはやるじゃねぇか。
「俺が使っていいか?昨日話した通り、フレアには弓を使ってもらいたいんだ」
「山仕事用だ。振り回すもんじゃねぇが狼相手なら十分だろ。しっかり手入れしてるからお前のナイフよりよっぽど切れるぜ」
トラルがニヤニヤしながら渡してくる。俺は腰のナイフを外して、代わりにナタを差した。
いいな。振り回せば狼の首なんか一撃で飛ばせそうだ。
「ナイフはフレアが持っててくれ。俺たちが守るけど、万一の時用だ」
「フレアは俺が絶対に守るぜ!」
フレアは少し照れくさそうにナイフを受け取った。
「……ありがとう。二人共」
次は村長の家だ。俺たちは三人で並んでドアを叩いた。
村長はいつもの穏やかな顔で俺たちを迎え入れた。囲炉裏の火がパチパチ鳴ってる。
「ニゼク。報告に来たんだな」
「村長。わりぃ。村で決めたことなのに無視してやっちまった。あの時は頭に血が登ってたが、よくなかったと思ってる。だけどやっぱり認めて欲しいんだ。そんで力を貸して欲しい」
俺は正直に話した。内容はトラルに話したことと大体同じだ。
勝手な話だが認めて欲しい。ダンジョンダンジョンと言ったところで、村長やみんなの協力が無ければ何も進まない。
村長は何度も頷きながら俺の話を聞いてくれた。
「……儂らが間違っておったんじゃ。早くから毎日山に入ってるお前を見て、みんな同じことを思っておった。あの時は止めてしまって済まなかったな、歳を取ると変化が怖くなるもんなんじゃ。もう遠慮することはない、お前たちが村の未来だ。自分たちがやるべきだと思ったことを、好きにやりなさい」
そう言って、村長は奥の蔵から古い弓と矢筒を取り出してくれた。
猟師をしていたおっちゃんが町へ去る前に置いていったものだという。
弓身はかなり年季が入ってるが、弦はまだ張りがありそうだ。矢は十本ほど。矢羽は傷んでいるが金属の鏃が付いている。
「村長!ありがとう。本当に助かる」
村長はただ微笑んだだけだった。最高の村の最高の村長だぜ。
「村長さん、ありがとうございます。あの、これ、ダンジョンで取れたものから作ったんです。いい出来ですので召し上がってください」
出したのはジャム。行商が来たときの為にちょこちょこ作ってるやつだ。昨晩も食べちゃったけど。
村長はジャムの瓶を受取り、早速指を突っ込んで舐めた。
「むおぉ!これは!うんまぁぁぁ!」
「あんた!独り占めするんじゃないよ!」
「離せ!これはワシがもらったんじゃ!」
奥で見守ってたおばさんも出てきて取り合いを始めやがった。甘味は年寄りすら狂わせるのか……。何もかも貧乏が悪いんだ。さっきまでの格好いい村長返して。
「何をしとるかニゼク!行って来い!」
「………」
「あの、もうひと――」
「行こうぜ。村長は放っておこう」
まぁほっといても大丈夫だろう。村長のところの喧嘩はしょっちゅうだからな。
それより矢だ。弓は手入れをすればいいが、練習用の矢が欲しい。鉄の鏃は回収すれば使えるだろうけど、打ち直せないからすぐに駄目になるだろう。鍛冶の設備なんて村にゃない。
「ウチのおふくろに相談してみよう」
「あー、おばさん色々作ってたよね。聞いてみようよ」
ということでトラルのおばさんに相談すると、軽い返事が返ってきた。
「ああ、矢?作れるよ。冬の間にみんなで食器や籠を作ってるのと同じさ」
おばさんは慣れた手つきで、尖らせただけの木の矢を作ってくれた。
出来上がった矢は正直頼りない。
矢羽はそこらの葉っぱ。まっすぐ飛ぶ保証もない。だがまぁいいさ。
「練習用なら十分だろう。本番は鉄の鏃の矢がある」
まぁこれでもあのちっこい犬になら牽制になりそうだけど。
「おばさん、これも見て欲しいんだ。ダンジョンで拾った毛皮。沢山手に入るかも知れない」
「不思議な皮だね。生臭くもないし、硬いけど使える革に仕上がってる。丁寧な処理はいらないね。柔らかくするだけで十分だ」
丁寧に鞣さなくても、木の皮を煮た汁に漬け込んで揉み込むだけで柔らかくなるらしい。本来は腐らなくしたり縮まないようにしたりと大変なんだが、流石ダンジョンドロップは一味違うぜ。
「これで防具を作れって?早いほうがいいんだろう、人を集めてなんとかやってみるよ。ところで、トラルから聞いてる物があるんだけどね?」
「おばさん、お礼はジャムでいいかな?砂糖はダンジョンで取れたんだけど、今は取れなくなっちゃって」
「もちろん!」
報酬はジャム。そして未来の砂糖と果実。それで話がまとまった。
装備の目処が立ったことで、俺たちはダンジョンで鍛えることにした。
トラルは大きな狼にビビっていたが、雑魚狼なら俺一人でも余裕がある。ゆっくり慣れてくれたらいい。
フレアの弓の練習も実戦で行った。命中させる練習よりも、動き回る敵味方の中での立ち回りを重視したんだ。
フレアの弓は驚くほど急成長した。最初は前に飛ばすのが精一杯だったのに、二日目からはまっすぐ突き刺さるようになった。本人曰く「なんか思ったところに飛んでいくの」というぶっ飛んだ才能を見せた。
宝箱は出ない。代わりに毛皮とそれに加えて牙がどんどん溜まった。牙は中指くらいの大きさで、使い道は無い。だがまぁ捨てるのもな。
毛皮はおばちゃん達に渡して使い方は任せた。ジャムの効果は凄まじく、みんな張り切ってくれてるみたいだ。
それから十日の狩りの後、完成した防具が届いた。
毛皮を柔らかく鞣した革で作られたレギンスと小手。フレアにはケープ付きで、肩から背中を覆う可愛らしいデザインだ。
俺とトラルには木製の小さな盾。握りの部分に厚く革が巻いてあって衝撃を和らげてくれる。
「これで少しは安心だな」
トラルが盾を叩いて笑った。
フレアはケープを羽織って、くるっと回ってみせた。
「どう?似合う?」
「似合う似合う。冒険者っぽいぞ」
仲間は揃った。装備も整った。戦闘にも慣れた。
俺たち三人はダンジョンの前に立った。
一人で周っていたときとは全然違う。仲間がいて、村のみんなの期待を受けて、ダンジョンを攻略するんだ。
胸の高鳴りが止まらない。何かが俺の背中を押しているのを感じる。
必ず勝つ。あの犬のことを考えても何も怖く無い、ここで死んだって構うもんか。
二人も同じなんだろうか?
「行こう」
「おう!」
「うん!」
もう誰にも負けない。
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