第3話 バイバイン
朝からダンジョンにやってきたが早々に終わってしまった。
思いついた事を実行したいが、その前にフレアに相談した方がいいだろう。
なんでも得手不得手というものがある。考えるのはフレアに任せておけばいいのだ。
だから俺は張り切って畑で力仕事に精を出そうと思ったんだが――
「おうニゼク。今日はいいのか」
「トラルか、フレアを助けてくれてたらしいな。楽しかったか?」
「ふん!文句があるなら真面目に働かんかい!」
この野郎、フレアを狙ってるのを隠しもしねぇな。だが世話になったのは確かだ。文句は言えねぇ。
それだけ話して、黙々と作業を進めた。
フレアは礼を言っていたが、礼よりもニコッと笑ってやるほうがいいんじゃねぇか?言わねぇけど。
夜。
今日の収穫と、宝箱が早く尽きたことを話した。
「それでな、外のスライムを探してダンジョンに食わせてみようと思うんだ。ダンジョンの力で魔物を生み出してるなら、逆に魔物がダンジョンの力になるんじゃないかなって」
「分かるけど……それってダンジョンに餌をあげて成長させるってことだよね?危ないんじゃないかな」
「うーん。これまでにダンジョンから持ち帰った食べ物と比べて、スライム一匹で大きな変化は出ないんじゃないか?食べ物を置いてくるって手もあるけど、食べ物を取りたいのに逆に置いて来たんじゃ意味がない」
フレアは少し考えてから言った。
「怖いな。ちゃんと気をつけて、一匹ずつ試した方がいいと思う」
「一匹ずつか……。分かった。そうする」
反対はしなかった。だが賛成というわけでも無いみたいだ。俺は沢山集めて放り込むつもりだったので物足りないが、きっとフレアが止めてくれるくらいで丁度いいんだろう。
◇◆◇◆◇
翌朝、まだ日が高くなる前に家を出た。
早めに出かけて、昼からは畑仕事をする予定だ。
「あんた、また山かい」
意気揚々と出発した途端に、井戸のそばで村のおばちゃんに捕まってしまった。
「フレアちゃんは朝から畑仕事だってのに、あんたは毎日フラフラして……」
「はっはっは!おばちゃん、俺だって無駄にふらふらしてるわけじゃないんだぜ。色々考えて動いてんだよ」
「ふーん。そうやって暢気にしてるうちに、フレアちゃんを誰かに取られちまっても知らないよ?」
「勘弁してくれよ。俺とフレアは――」
「はいはい、若いねぇ」
おばちゃんは一人で笑いながら歩いてった。
こっちの話は聞かないのに見かける度に話しかけてくるんだよなぁ。まぁいいや、今日は大事な実験だ。
頭を切り替えて山道を急ぐ。
湿気た木陰、苔だらけの岩の隙間。
地元の山なら目星はついている。案の定、10分もしないうちにぷるぷると震える緑色のスライムを発見した。
「よっしゃ、ゲット」
そのままむんずと掴んでダンジョンへ急行。
「……ほいっ」
入口近くに放り込んでみたが、スライムはのんびりもぞもぞしているだけ。ダンジョンの中は湿気てるわけじゃないが、居心地がいいのか?
だがそんなスライムを眺めていても仕方ない。
「ちょっと戦わせてみるか」
俺も中に入り、スライムを捕まえて奥に進んだ。
一番奥にはいつもの青みがかったスライム。ダンジョンスライムと呼ぼう。
「ゴー……ファイッ!」
ダンジョンスライムの横に野生スライムを置いた途端、二匹は激しく(?)戦い始めた。
うにょうにょと動いて互いにマウントを取り合う。最弱のマウント合戦だ!
しかし悲しいかな、ダンジョンスライムはロクな抵抗もしない内に上を取られてしまった。これはマズい。
「手伝ってやるか。もっと頑張れよ」
俺は野生スライムを掴んで振り回し、たっぷり弱らせてから再び地面に置いた。すると――
ぐちゃっ……ぷるるるっ……
ダンジョンスライムが野生スライムに覆いかぶさり、あっという間に溶かして吸収してしまった。
「おぉ……、こんな風になってたのか」
野生スライムを吸収したダンジョンスライムは、心なしか誇らしげに震えている気がする。
「てい!」
俺はそれを容赦なく踏み潰した。もっと強くなりな。
ワクワクしながら一度外に出て気持ちを落ち着ける。
興奮を抑えて入り直すと、通路には宝箱が二つ並んでいた。
「うっし!成功だ!」
中身は相変わらずパンと果実だったけど、それでも二倍は二倍だ。
奥へ進むと、さっきのダンジョンスライムがほんのり赤みを帯びている事に気づいた。
構わず踏み潰そうとすると、ひょいと避けられる。
「おっと」
でも結局はいつも通り一撃で沈めて終了。
その後もしばらく繰り返したが、宝箱は二個で安定。
持てるだけのアイテムを回収して、今日は満足してダンジョンを後にした。
まだ正午頃だ。畑に戻ってフレアと果物を食べて、夕方までしっかり働いた。
「それで、どうだったの?」
「あぁ、成功したぞ。なんと宝箱が二個ずつになったんだ」
「ダンジョンが成長したんだね。よかった……のかな?」
「よかっただろ?後はもっと広くなって宝箱の中身もいいものになって……」
「そしたら、魔物も強くなって行くのかもね」
「む……確かにそうかもしれない。実はスライムが少し赤くなってて、動きも早くなってたんだ。ほんのちょっとだけな」
「そっか……。ねぇ、無茶はしないで様子を見ようよ。なんか悪い予感がするっていうか」
そういうフレアの顔は、悪いことを確信してるみたいだ。
全然大丈夫だと思うんだが、こいつに嫌な思いをさせてまで無理にやるのも違う気がする。
「分かった。何日か様子を見よう。それからまた一匹だけ入れてみるならいいだろ?」
「……うん、それなら」
「決まりな!」
俺はそう言って今日の成果であるパンに齧り付いた。うん!ウマイ!
「フレアも食べよう」
「うん!」
二人だけの小さな家で、俺たちはパンと果実をかじりながら、明日からのことをぼんやりと考えていた。
餌を上げたことに、ダンジョンが応えてくれた気がしたんだ。俺の事を認めてくれたのだろうか?
このまま立派なダンジョンに成長して、冒険者を呼び込むことが出来れば、村の暮らしは楽になるはずだ。
俺はダンジョンに特別な感情を持ち始めているのを自覚していた。
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