第4話 過疎率98%!限界です!

 朝。早い時間からダンジョンを周っている。

 走って外に出て、得た物は外の籠に詰める。フレアが蔓で編んでくれた背負い籠だ。

 大きめの籠だが、宝箱が二個ずつ出るようになったので二時間もかからずにいっぱいになった。


「よし。今日はこれで終了」


 集めすぎても傷んじゃうからな、これで終わりだ。

 2時間走りっぱなしだったんだが、体はたいして疲れてない。最近すごく調子がいい。


 餌は3日間やらないことに決めた。

 俺としてはもっと成果が欲しかったが、これだけ周っても宝箱が一つに戻らないってことは、単純に栄養が増えただけじゃなくて一段成長したってことなんだろう。なら慎重になるのは正しいと思う。


「ただいまー」


「おかえり、あんちゃん」


 フレアは土まみれの手で笑顔を見せた。

 俺もすぐに畑仕事に参加するが、今日は午前中で切り上げると決めていた。

 理由はもちろん――


「今日は砂糖、使ってみるよ」


 フレアの瞳が、ちょっとだけ得意げに輝いている。

 朝から宣言していたことだ。


 ダンジョンで採れる果物たち。

 分厚い皮のラコン、渋みのあるハルベリー、ほのかに香る真っ赤なアグー。

 普通なら種ごとぐつぐつ煮込んで形が無くなるまで溶かすところだけど、今日は違う。


「砂糖をたっぷり入れて、果実の形を残したまま……甘くて香りもよくて、しかも夏を超えても傷まないんだよ」


「どこでそんなの覚えたんだよ?」


「あー……お祭りのとき、ちょっと秘密の会でね」


 どうやらおばちゃんたちの「秘密のお楽しみ」だったらしい。

 祭りの時、男たちが酒を飲んで騒いでる間に、女性陣はこっそり甘いものを楽しんでた、と。

 ……俺とトラルには酒も甘味も無かったけどな!


 フレアは果物を種類ごとに分け、ヘタを取って軽く潰す。

 大きな鍋にそれを全部ぶち込んで、上から雪のように砂糖を降り積もらせた。

 見ていてちょっと引くくらいの量だ。

 完全に使い切る気満々である。


 少し置いてから火にかけて、ずっとぐるぐるかき混ぜる。

 浮いてきたアクを丁寧に取り、ラモンの果汁を絞って更に煮込む。

 家の中に幸せな甘い匂いが充満してきた。


「ねえ、あんちゃん。トラル呼んできてよ。畑を手伝ってくれたお礼」


「ん、いいけど砂糖のことを聞かれたら……まぁ、あいつならいいか」


 俺は渋々トラルの家に向かった。今ならどうせ畑だろう。

 案の定、畑の端でトラルはおじさんおばさんと一緒に黙々と作業していた。


「おーいトラル!フレアがごちそうしたいってよ!おじさんおばさん、トラル借りてっていい?」


「お、おう!ちょっと待ってろ!」


「もう終わるとこだったからね、楽しんできな」


「頑張れよトラル」


「う、うるせっ!」


 トラルは慌てて井戸水で顔を洗い、髪を濡らしたまま着替えて飛び出してきた。

 なんだコイツ、変わっちまったなぁ!


「……なんだよ」


「べつに?」


「チッ!」


 色気づきやがってよぉ。あの突っ張ったトラルはどこ行っちまったんだよ。

 帰ると、家の中はもう甘さの天国だった。


「おかえりあんちゃん。いらっしゃいトラル。美味しいもの作ったから、楽しんでね」


「あぁ!フレアの作ったもんなら絶対うまいって!」


「……それはそうだな」


 スプーンですくって口に入れた瞬間、三人とも目を見開いた。


「う、うわっ……!?」


「なんだこれ、すげぇウマイ!甘い……!」


「実の食感が気持ちいいね、香りもしっかり残ってる」


 今まで味わったことのない、濃厚で鮮烈な甘さ。

 ダンジョンで頑張った成果でもある。量は沢山無いが、これからもダンジョンを周れば材料は手に入るはずだ。これは身が入るなぁ。

 トラルはこれが珍しい物であることは当然理解しているだろうが、材料については何も聞いてこなかった。


「そういえばさ、行商が来てるってよ。後で母ちゃんたちと見に行くつもりだったんだ」


「え、マジか。久しぶりじゃん」


「あぁ、フレアも一緒に見に行こうぜ」


「……待って。ちょうどいいかも」


 フレアが、急に真剣な顔になった。


「このジャム、売ってみようと思うの」


「な、なにぃ!?」


 俺は思わず声を上げた。

 それを売るだなんてとんでもない!保存も効くんだろ?


 でもフレアは静かに続ける。


「これが売れるのか、確認する必要があるよ。これから何が必要になるかわからないし……お金もいるでしょ?」


「ぐぬぬぬ……」


 渋々ながら俺も頷いた。


          ◇◆◇◆◇


 行商は村の広場で荷を広げていた。知らない顔だな、いつものおっちゃんはとうとう来なくなったのか。

 しばらくは売っているものを眺めた。少しの嗜好品と、途中の村で仕入れたであろうここでは作っていない作物。鍬や鋏、ナイフや針と様々な物が並んでいる。村でもとびきり貧乏な俺には見ることしか出来ない物なんだよなぁ。この村で作ってるものと被ってないのは、しっかりリサーチ済みってことなんだろう。やり手だな。


 他人が居なくなったところでフレアがジャムを差し出した。


「これは砂糖をたっぷり煮詰めた本物のジャムです。これを買い取って欲しいんです。試しにこっちのを食べてみてください」


 行商のおっちゃんは、ジャムを一口食べて目を見開いた。


「……むおぉ!これはすごい。砂糖もたっぷり使っているし、この時期にこれは……」


 なんだこのおっちゃん、食通か?大袈裟に驚いた行商のおっちゃんは、1瓶につき銀貨2枚で買い取ってくれた。

 合計銀貨6枚。フレアはそれで了承した。

 空瓶なら銀貨1枚で3つは買える計算だから、瓶代を差し引いてもまあまあ悪くない……のかな?これが適正なのかは分からないが、他に持って行く先もない。


「もっと作れるのか?」


「値段次第だな。よくわかってねぇけど安すぎたなら諦める」


「まぁまぁ、そう言うなって!じゃあ期待を込めて空き瓶をサービスしてやるよ!ほれ、兄ちゃんにはこのナイフもオマケだ!サービスするんだから他に売るなよ?」


「……あんがとよ。俺はニゼク。こっちが妹のフレア。オマケにこいつがトラル」


「ヨロシクな!」


 ホクホク顔で調子がよさそうだ。こりゃ買い叩かれてそうだな。


「おっちゃん、色々回ってるんだろ?他の村や町の様子は変わりない?」


「そうだなぁ。この辺りの村はどこも大差ないだろう。ここらは特別な物も採れないし、土がいいわけでもない。どこもまぁ、あれだ」


 どこもジリ貧か。そしてたぶんその中でもこの村が一番だと思う。

 行商が来てくれるだけでもありがたい、多少買い叩かれたって仕方ないさ。

 ジャムに利益があるならまた来てくれるだろう、フレアはそこまで考えてたのかな?


「最近はダンジョンブームも落ち着いて来たしなぁ。甘い考えでダンジョンなんて掘るもんじゃない。大規模なトコはいいが、半端な村のダンジョンは管理で苦労してるらしい。放置したら魔物が溢れるし、近くの村は犠牲を出しながら埋めたって聞いたぜ」


 まじかよ。フレアの方を見ると渋い顔をしている。いやいや他所は他所、内は内だからな。……フレアに何でも相談するのは正解だったようだ。

 しかし考えることはどこも似たようなもんなんだな。案外簡単に掘れるもんなのか?ブームってどういうことだよ。


「町の方もあまりいい話は聞かんな。村から流れてくる連中のせいで治安も悪くなって、町の奴らもピリピリしてる。村から離れたい年頃だろうが、ここで頑張るのも悪くないと思うぜ」


 そんな話をしていたら他の客が来て、俺たちは離れた。

 歩きながら空を見上げて、トラルがぽつりと呟いた。


「町に行った奴ら……苦労してんのかな」


「さあな。どこかに行けば楽ってわけじゃないのかもな」


「どこに行っても苦労すんのかねぇ……」


 俺たち三人は、元々町の生まれだ。

 まだ小さかった頃、身寄りのない俺たちを村長が引き取ってくれたんだ。

 村には若者が必要だった。そしてガキだった俺達には若さだけがあった。


「あの頃から、村はずっとこんな感じだったな」


「そうだな。みんな出て行っちまって、今じゃ俺たち三人が最年少だ」


 村のみんなは温かかったが、それでも村に希望は見いだせなかった。

 一緒に来た連中も含め、更に多くが村を去った。今、村に子供は一人も居ない。


「……じゃあさ」


 フレアが急に明るい声を出した。


「この村を良くしようよ!出ていったみんながいつでも帰ってこれるように。ここが、ちゃんと『帰る場所』になるように!」


 俺とトラルは顔を見合わせて笑った。


「……そうだな。俺たちが頑張らねぇと」


「任せとけ!」


 ……俺としたことが、しんみりしちまったな。頑張らねぇと。


 その帰り道、俺はふと、じっちゃんの墓参りがしたくなった。

 墓を掃除して、朝採ったダンジョンパンをそっとお供えする。


「じっちゃん、俺がダンジョンを掘ったんだぜ。そのパンはダンジョンから出たんだ。うまいぜ。安心してくれ、この村は俺たちが盛り返して見せるよ。だからパンでも食いながら見ててくれよ」


 明日からまた頑張ろう。

 慌てる必要はない。

 俺たちならきっと出来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る