第3話 学園の敵と味方


学園に入ってからシシラはあからさまな冷たい視線を受けた。冷たい視線を与えるのはアビスに近しい生徒たち。そしてアビスを贔屓する教師だ。教室に入る直前にシシラは、アビスを贔屓する教師に呼び止められる。



「シシラ嬢、ちょっと来てもらおうか」


「はい……」



シシラが連れてこられた先は学園長の部屋。勿論、学園長のガニバケが仏頂面で待ち構えていた。



「シシラ・アリゲイタ! 貴様、どういうつもりだ!」


「? 仰る意味がわかりませんが?」



学園長がいきなり怒鳴ってくるがシシラは分からないフリをする。すると、学園長は教師にあるまじき言葉を口にした。



「分からんのか! 今回の試験についてだ! 何故、妹君の筆記試験を入れ替えなかったのだ!?」



筆記試験の入れ替えとは、シシラとアビスの筆記試験の結果を入れ替えることだ。所謂、不正そのもの。入学当初からシシラたちの両親が学園長と決めていたことで、姉のシシラに入れ替えさせていた。



「それでしたら今回は無理でした」


「それをどうにかするのが貴様の仕事だろう!? 上の指示には従わんか!」



教鞭を執る者が口にすることとは思えない無茶ぶりにもシシラは顔を崩さない。ただ、心は白けきっていた。



(不可能は可能にできないことくらい理解なされないのかしら?)



学園長の延々と続く叱責と苦情と暴言は繰り返されるが、シシラは黙ってそれを聞くだけだった。反論をしないのは無駄だと分かっているからだ。



「はぁ、はぁ……もういい、出ていけ!」



学園長の気が済んで解放されたのは、午前の授業の終わりごろ。学園長自身がヘトヘトになっているのにシシラは平然としているのは、これも慣れっこだからだ。



「シシラ、今解放されたのか?」


「シュバリア様……」



学園長の部屋から出たところで、シシラは銀髪碧眼の青年に呼び止められた。彼は留学生の魔術師シュバリア・カイマ。この学園において数少ないシシラの理解者と呼べる青年だ。



「ええ、いつもよりちょっと遅い程度ですね。まあ、大したことではありませんけど」


「何を言うんだ! 一般生徒に対して教師がこんなのは……」


「私の家の事情ですから」


「シシラ……!」



学園長に理不尽な言葉を浴びせられたのだと察したシュバリアは憤るが、シシラは家の事情だと言って穏やかな笑顔を見せる。シシラなりの優しさなのだとシュバリアは思うのだが、それが逆にやるせなさを感じさせる。



「家の事情だなどと誤魔化さないでくれ。今からでも学園長を訴えて……」


「それを一度してもこれなのですよ? 王族が後ろ盾では名ばかりの公爵令嬢など無力ですわ」


「くっ!」



訴えるべきだとシュバリアは言うが、彼は一度本気で訴えたことがあったのだ。しかし、聖女のアビスを優遇したほうが都合がいいと考える学園長は訴えを聞き入れることがなかったのだ。聖女としてのアビスを王族が推している以上、下手なことはしたくないというわけだ。



「なんて学園だ! シシラはこの国の王子の婚約者だと言うのに!」


「その王子様が私よりもアビスを望んでいるのです。いずれ私との婚約も白紙になるのでしょうね」


「そうだとしてもこれはあんまりだ!」


「アビスが聖女なのです。仕方ありません」


「シシラ……」



すっかり諦めたように笑うシシラのことをシュバリアは歯がゆく思う。そんな彼の様子に気づいたシシラはなんだか申し訳なく思って話題を変える。



「シュバリア様、午前中の授業に出れなかったので申し訳ないのですがノートを見せていただけないでしょうか?」


「も、勿論だ! ノートくらいいくらでも見せるさ! 一緒に勉強しようじゃないか!」



シシラからふった話題にシュバリアは食いついた。その後、二人は雑談を交えながら教室に向かって行った。



(シュバリアと話している時だけは本当に楽しい。学園で笑えるのはこういう時だけね……)



シシラが学園で他愛のない会話ができるのは、本当にシュバリアだけ。後は彼の取り巻きの留学生くらいだった。そういう意味ではシシラはシュバリアに感謝してもしきれない。

 


(シュバリア様の祖国、バッファロード王国……彼の国に行ってそこで暮らしたいな……)



シシラは実現できそうもない夢を想う。それほどにシシラの中でシュバリアは大きな存在なのだ。しかし、シシラは蔑ろにされても公爵令嬢であり望んでいなくてもこの国の王子の婚約者だ。他国に行く理由がまったくないと言ってもいい。諦めるしかない夢だ。


だが、その諦めるしかない夢は妹のアビスの悪意によって実現することになる。


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