第2話 もう恋はしない

あの日以来、私は恋人を作ろうとも、女子に興味を持とうとも思わなくなった。

教室では一人で座り、いわゆる陰キャラとして過ごしている。

その方が、誰の時間も奪わず、浅い思考で告白することもないからだ。

友達との関係も数人に絞り、気づけば時間だけが静かに過ぎていった。

そうなった理由は、恋愛だけではない。

遠距離通学も、その一つだ。

毎朝五時半に起き、朝食をとり、母の愛のこもった弁当を鞄に入れる。

六時半に家を出て駅まで歩き、列車を待ち、三十分揺られる。

そこからさらに自転車で一時間。

ようやく高校に着く。

部活を終え、帰宅は夏なら二十二時、冬でも十九時。

睡眠は足りず、疲弊した身体が悲鳴を上げる。

土日も友達とは遊べず、ゲームすら楽しく感じなくなった。

唯一の楽しみは、映画を観に行くことだ。

毎回映画館を変え、電車で遠くのモールへ向かう。

しかも一人で。

それが、私にとっての救いだった。

一人の時間が増えたことで、私は「一人でいる方がいい」と確信するようになった。

恋をしないこと。

心を閉ざすこと。

それは、互いにとってメリットなのかもしれない。

どうせ別れる未来があるのなら、最初から踏み込まない方がいい。

結婚だの、彼女を作れだの。

私には難しい話だ。

喧嘩ばかりの夫婦も、現実にはいくらでもいる。

映画から学んだこともある。

ハッピーエンドは助け合い、

バッドエンドは価値観の違いや、疲弊から生まれる失言だ。

この「価値観の違い」が、私は一番怖い。

分かり合えず別れる人もいれば、我慢し続けて爆発する人もいる。

相手が何を考えているのか分からないことは、恋愛の大きなデメリットだ。

気を使い続ける生活は、幸せからは遠い気がする。

だから私は、もう恋をしない。

よほど大きな影響がない限りは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る