死にかけるにょん
立ち上がるオオゴブリンが地鳴りするほど激しく叫んだ。
「季節。僕が時間と距離を稼ぐから、妹ちゃんと、美夏を」
季節はすぐに頷いた。競輪は左に。そして季節は右に別れ、美夏の腕を引いて壁沿いに走る。それは、すぐに視界に捉えた。
そこには何か壁に裂け目のようなものがあって、どうやらオオゴブリンはその中を漁っていたらしい。そして季節も、美夏も、間違い無いと思って、季節は美夏の背中を押した。
「行って。行って。行ってきっと大丈夫隠れてるだけ」
「ありがと…ありがと…ほんとに…。巻菜! 巻菜!!!」
大柄な身体を持つオオゴブリンに対して、競輪が小回りで対応する。股の間をスライディングで潜り抜け、振り払う腕に対し棒高跳びのように躱して挑発する。
「無理しないで競輪!! もうすぐ! もうす……」
ヌッと、壁の裂け目から現れた顔を、季節もまた視界に捉えた。
小さなゴブリンだ。まだ赤子。このオオゴブリンはただの、子育ての最中だったのだ。
美夏は放心している。その状況を見た競輪もまた、そこに一瞬の隙が生まれ腹部に拳をモロに受ける。
「ぶっ!!」
討伐ランクは複数人で戦う事を前提としているランクでしかなく、ましてやただ戦闘慣れしているだけの普通の少女と戦えば、玩具とそう変わらないのは言うまでもない。そしてその赤子もまた、同じ程の猟奇性を持っているようだ。生え揃いつつある鋭利な牙をむき出しに、三匹のオオゴブリンの赤子が美夏に飛びかかる。その牙を受け止めたのは季節の腕だった。
流れ出る血液と、季節の苦悶を堪える表情とを交互に見つめる。
「逃げて。早く逃げてダンジョンを出て!!」
「ででででででででででで……もででも……」
「行って!!!」
声に応じて咄嗟に立ち上がる事が出来た美夏は広場の出口を目掛けて走った。しかし、オオゴブリンが狙ったのはその、最も動きの早い獲物だった。
オオゴブリンが走る。距離としては、オオゴブリンの方が遥かに出口に近くに居る。季節の咄嗟な起点。オオゴブリンの子供の頭を鷲掴みにした。
「ん!!!!」
季節はオオゴブリンの子供を高くに投げ飛ばす。走る足は止まらなくとも僅かに注意が逸れるも、標的が変えることが出来ないほどもう美夏に対しての攻撃行動を取っている。それでも、追い付くに十分な間を得る事は出来た。
季節が飛び込む。美夏の背中に対し、思い切り手のひらを翳して押し込んだ。
すると、オオゴブリンの拳は確実に息の根を止める為の殺意を以て、季節の脇腹を直撃する。
後頭部。まるで骨伝導で響き渡るように、ボキボキと骨が砕ける音が美夏の後頭部に届いて脳内に響き渡った。もう走れもしないし、振り返る事も出来ない。ヨタヨタと、一歩と、また一歩と、前に進もうとするも、微々たる進歩だ。
オオゴブリンの標的は季節に移っていた。弾け跳んだ季節は呼吸も止まり、小刻みになんとか息をしようとしている。その目の前に、ヤツは来る。
「季節!!!!」
『お前の目は、神の目だ』
「ひゅっ……ひゅっ……」
(終わって…たまるか……)
眼鏡の外れたその眼力で、季節は殺意を以て睨みつける。
ピタッと、オオゴブリンの動きが止まった。オオゴブリンの膝がガクガクと震え始めた。
「なに!?」
【暮山 季節】 彼女の目付きは、モンスターすら怖がらせるほど悪かった。その硬直中、競輪に
「美夏!!! ナイフを!!!!」
ふとして思い出した希望は勝機だった。だから身体が勝手に動いた。美夏はポケットからフォールディングナイフを競輪に投げる。宙に浮かぶナイフに飛び込み、手の中で回転させて刃を出す。そしてオオゴブリンの膝の裏を切り裂き、膝を落とすとその頭部に、ナイフを刺す。
戦闘を終えても事態は終わらない。季節は既に命の狭間を彷徨っている。それを心配している余裕すらも無い。
「美夏! 手伝って!!! セーブポイントに」
「は!! はい!!!」
二人が両脇に頭を通して、合わせる事に何の意識も無く、季節を間に挟んだ二人は歩幅を合わせて出口に進む。二人にとって幸運だと思えたのは、そこにモンスターが襲ってこなかった事だ。血の臭い、事態の騒ぎがあっても、命の危険に瀕しながらも正面を睨み続ける季節には、誰も手を出そうともしない。
「頑張って。もう少し。頑張って!!」
「ごめんなさい……ごめんなさい私のせい……」
「だ…大丈夫…だ……だいじょ……」
光が見えた。そしてそれに包まれたところで、季節の意識が途絶える。
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