また会った ホォー
『季節。断言しよう。お前の目は、神の目だ』
今ふと思う。この目も含めて自分という存在を認めていたのは、祖父だけなのではないか、と。だがそれを捨てた事に後悔は無い。スッキリとしていて、清々しいくらいなのは事実だ。ならば何故友達という存在を求めているのかと言えば、悩んでしまう。
ただ才能から逃げた事実から目を背ける為か。ただ捨てた過去を忘れたいだけなのか。捨てた事を正当化したいからなのか。少なくともこのポッカリと空いた心の隙間は、個人で埋める事が出来るものではない。
帰りのホームルームが終わった。色々あり過ぎたからだ。登校初日という大きな転機に一抹の不安が過る。特別大きな感慨も無ければ、特別、大きな出会いも無い。とりあえず今はそれでいいと思った。
「部活どうする?」
「私今日、料理部行ってみるよ?」
「えー……。一緒良い?」
「行こー!?」
「なぁサッカー見に行かん?」
「お、行く行く」
「お前名前なんだっけ」
「俺松田」
「おっけ。田代な。行こうぜ」
初対面なのかどうかも分からないが、クラスメート達は既に新しい人間関係を構築し始めているようだ。それなのに季節は一人孤独に鞄の中に教科書類を詰め込み、立ち上がり今誰かに話し掛けられるか期待しながらも、誰もその背中に声を掛けず、誰も彼女が教室を出て行った事にも気付かない。
『普通』とはこのレベルが最低ラインでもあるだろう。
靴箱にはまだ沢山の靴が入ったまま。帰ろうとする者は少ないらしい。
「…………」
スタートラインがそもそも遅れている。
「…………」
(私はゆっくりでいい……)
頭の片隅に、睨みつけてしまったあの少女の顔があった。悪い顔をしていたが、安堵の顔も罪悪感も確かにあって、助けたのは事実である。何かあっても良いはずだ。
そんなやや淋しげな背中を、学校の3階から見下ろす三人の女子生徒が居た。
「あの子だよね」
「名前は【
校門を出た直後のことだった。彼女はどうやら、待ち構えていたらしい。季節が逆方向に舵を切ったものだから視線すら合わなかったから、少しの間、彼女の背中を追いかける。
「あ……あの……」
「?」
季節が振り向いた。そこには今朝のポニーテールの女。【
「あ……えっと……競輪さん……?」
チェシャ猫みたいな柄のスウェットは前を開け広げ、『母性30%』と書かれた白いTシャツの文字を見せびらかす姿はもうそれは間違いなく中卒だった。
「そうそう! 良かった覚えていてくれて」
「あ……え……私に……用事……?」
「そう。実はお母さんがさぁ」
「あ……」
じゅくっ
心臓が変な動き方をして痛む。
『普通』はそうだ。心の中に確かに空いた穴には、『母親』という概念がある。それは友達などでは決して埋まらない一抹の不安の正体であった。
「?」
「あ、なんでも、ありません。それで」
「そう。お母さんに今朝の事を話したら、『ちゃんとお礼は言ったの!?』って煩くてさ。これ! お菓子持ってきたから」
競輪は紙袋を前に掲げて見せた。
沖縄の物を期待した束の間、それはどうやら東京の土産物らしい。
「僕、元々東京の生まれでね? これ定番なんだけどさー。あれ、そう言えばなんだけど、君ってこっちの人? 僕、冒険者として結構この周辺パトロールしたりもするんだけど、あまり見ない気がするんだけど」
「あ……うん……。あの……、私も、東京なんです……。実は……」
「あ……じゃあ……もしかして……これ……」
「い! いえ! そんな! 嬉しいです。東京に住んでても中々食べないですし!」
「そう? へへっ。あ、東京なんだ。何処?」
「渋谷です」
「お……おぉぉ…。じゃあがっつり都会っ子なんだね。私八王子」
悪い人では全く無い。へラァっと笑う様はむしろ好感が持てて、話す度に打ち解けてゆくようだった。
「あ、あぁ、行ったこと無いかも」
「じゃあ大変でしょ。こっちの暮らし」
「まだ来て一週間。けど、海が観えるの、気に入ってて」
「すぐ飽きるよ。じゃあ、この社会人が、沖縄を案内してあげるよ」
仰々しくもあり、朗らかな彼女の一挙手一投足。胸の奥が擽られる感覚があって、つい笑ってしまう。
「ふっ……ふふふふ……」
「ちょっとぉ……」
「じゃあお願いします。競輪さん」
「オッケー。あ、そうだ僕、君の名前も聞いてなかった」
「あ……ホントだごめんなさい……。【暮山 季節】」
「きせつ。ふふっ。君も結構変わってる」
「そんな事無い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます