第3話
翌日、最初の実技の授業があった
「――おい、そこの無能力者。邪魔だ、隅に寄れ」
実技教官、キリアン・ジャスパーは、眼鏡の奥の瞳で私をゴミのように一瞥した。
彼の周囲には、高密度の魔力が風となって渦巻いている。
「この授業は『高次魔力による物質崩壊』を学ぶ場だ。棒切れを振り回すだけの原始人に、参加する権利はない」
「……キリアン先生。剣術だって、立派な技術です」
「技術? 笑わせるな。指先一つで世界を変える我々魔法使いと、汗にまみれて鉄を振る君たちが、対等だと思っているのか?」
クスクスと、クラスの一部から笑い声が漏れる。
キリアン先生は、魔法耐性が施された巨大な強化ゴーレムを指差した。
「ほら、やってみたまえ。君のその『技術』とやらで、傷一つでもつけられたら、特別に授業への参加を認めてあげようじゃないか」
私は無言で歩み出た。
背負った剣を抜き放つ。派手な光も、轟音もない。
ただ、周囲の空気が一瞬で「冷たく」なった。
(深く、鋭く。……力じゃない、速度でもない。ただ、『断つ』ことだけを考える)
――閃光。
一歩踏み込んだ瞬間、私の体はゴーレムの背後に抜けていた。
「……? 空振りか。やはり凡才は――」
キリアンが言いかけた、その時。
ズレ、と。
巨大なゴーレムの巨体が、斜めに滑り落ちた。
魔法でさえ傷つけられなかった強化合金が、鏡のような切断面を見せて、地面に崩れ落ちる。
演習場が、静まり返った。
「……そんな。魔法もなしに、ありえない……!」
キリアンの震える声を聞き流しながら、私は剣を鞘に収めた。
「……あんな切り方、見たことがない」
帰り際、中庭で声をかけてきたのはレオだった。
昨日のような威圧感はない。どこか戸惑ったような、それでいて真っ直ぐな瞳。
「レオくん……」
「……勘違いするな。魔法が最強であるという俺の考えは変わっていない。だが……」
レオは少し視線を逸らし、ぶっきらぼうに続けた。
「お前の剣には、俺の知らない『理』がある。それを知るまでは……お前が勝手に倒れることは、俺が許さない」
「それって、心配してくれてるの?」
「……うるさい。行くぞ、ユズハが食堂で待っている」
先を歩き始めた彼の背中は、昨日よりも少しだけ近く感じた。
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