特別な日がなんでもない日になって、なんでもない日が特別な日になった日

緋色 刹那

🎂

 その日は〈私〉にとって、なんでもない日になるはずだった。



  ♦︎



 心地良い朝日を浴び、セレーナは目を覚ます。ベッドから体を起こして、大きく伸び。


「いい天気。今日も良い一日になりそう」


 直後、


「「「お嬢様、お誕生日おめでとうございまーす!」」」


「?!」


 部屋のドアがばたーんッ! と開け放たれ、セレーナ専属の三つ子メイド、ハル、ピピ、バーバラが笑顔で部屋に飛び込んできた。


 セレーナは伸びをした姿勢のまま、呆然と固まった。


「さぁさ、ご支度を! 本日はセレーナ様のお誕生日パーティーですからね」


「ご招待したお客様方がお着きになる前に、身支度やその他のご用意を済ませませんと!」


「私達が旦那様やバース様に叱られてしまいますわ!」


 三人に手を引かれ、ベッドから下りる。手早く身支度が進められる中、ようやくセレーナは疑問を口にした。


「ね、ねぇ。今日って私の誕生日なの?」


 一瞬、三人の手が止まる。キョトンとした顔が三つ、セレーナの前に並んでいた。


「そうでございますよ? 当たり前じゃないですか」


「きっと、寝ぼけていらっしゃるのだわ」


「大丈夫! バース様のお顔をご覧になれば、きっと目が覚めますわよ」


 三人は満足げに頷き、セレーナの身支度を再開する。セレーナも納得した。


「そう……そうなのね。

 ごめんなさい、最近忙しかったから忘れていたわ。三人とも、祝ってくれてありがとう」


「お気になさらず!」


「そういうときもありますわよ」


「の対応は旦那様にお任せして、本日はごゆっくりお寛ぎください!」


 メイド達はセレーナの体調を気遣い、励ます。セレーナは笑顔を返しつつも、内心は複雑だった。


(そっか……こっちでは誕生日なんだ、私)



  ♦︎



 セレーナの誕生日パーティーには客人が大勢駆けつけた。大半は、セレーナの父の関係者だったが、セレーナの友人や、幼なじみで恋人のバースも参加していた。


 メイド達の勧めに従い、客人の対応は父に任せた。することもなく、すみっこに置かれた椅子で休んでいると、


「今日の主役だというのに、浮かない顔をしているな」


「バース」


 バースはセレーナの横に立ち、優しく微笑む。


 貴族らしい身なりと振る舞いに、セレーナは一瞬、ドキッとする。彼がついこの間までセレーナの家の使用人だったとは、誰も信じないだろう。


 バースは隣国へ亡命した王族の末裔で、復讐のためにこの国へ戻ってきた。しかし、潜入先の屋敷で出会ったセレーナに惹かれ、紆余曲折の末に復讐をやめ、恋仲となった。


 セレーナも、性悪な継母や身勝手な前婚約者から守ってくれたバースを、心から信頼している。その証として、彼にだけはセレーナの「ある秘密」を明かしていた。


「貴方にだけは話すけど……私の誕生日ね、本当は二ヶ月後なの。前世の、だけど」


 は別の世界から「令嬢セレーナ」に転生した、転生者であった。前の世界では貴族でもなんでもない、ただの一般人をしていた。


 このことはバース以外、誰にも話していない。

 話せば、「お前はセレーナではない」と拒絶され、屋敷から追い出されるかもしれない。あんな優しい人達がそんなことを言うはずはないとは思いつつも、万が一を考えると踏ん切りがつかなかった。


「前世でも誕生日を祝ってもらったことは何度もあるけど、こんなに盛大に祝ってもらったことはないわ。とっても嬉しい」


「……」


「だけど、同時に気づいたの。の誕生日は、もう二度と誰からも祝われないんだって。今まで意識したことなかったけど、少し寂しいわね。自分の誕生日が、なんでもない日になっちゃったのって」


「……なら、なんでもない日を特別な日にしてしまえばいい。誰からも祝われる、特別な日に」


「どうやって?」


 バースはおもむろに膝をつくと、セレーナに指輪を差し出した。


「俺と結婚してください。式は、二ヶ月後にしよう」



  ♦︎



 二ヶ月後、セレーナとバースは〈彼女〉の誕生日に、結婚式を挙げた。なんでもない日は、誰からも祝われる特別な日になった。



〈了〉

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特別な日がなんでもない日になって、なんでもない日が特別な日になった日 緋色 刹那 @kodiacbear

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