第5話 交流交渉KMヨハネ
炎、爆風、悲鳴、血しぶき。その全てが桐谷には辛いものであった。
数万に及KMシリーズが戦火の中、進軍をしている。ダンジョンに住むのはほとんどが民間人だ。魔物も人類より強靭程度で戦闘兵器であるKMシリーズには勝ち目がない。無慈悲なKMシリーズの射撃から民間人は逃げ回っていたが、そのKMシリーズのCPU部分に集中的なマシンガンの射撃が当たり、頭部が破壊される。
「民間人は第四中央地区に向かえ! KMシリーズは五つの入り口全てから殺到している! 第四中央地区がすべての入り口から一番遠い! KMシリーズはあたしたち戦闘部隊が食い止める!」
神宮寺マリヤがマシンガンを振り上げて民間人を先導しながら声を上げる。民間人たちを逃がして回っていた桐谷神宮寺の姿に安堵を覚えるも声を張り上げる。
「マリヤさん! 過去にもこんな抗争が!?」
「初めてだよ! KMシリーズがダンジョンまで攻めてくるなんて! ちくしょうなんでだ!? ワーズワースとカシスの爺さん、あたしが守護してる地区はなんとか踏ん張ってるが、キャシディとシュラクのおっさんは何してやが……」
そう言いかけたとき、マリヤが守備が手薄と思っていた第二地区のあたりが青白く爆発する。
「あれは!?」
桐谷は声を上げるがマリヤは安堵の笑みを浮かべていた。
「はは、シュラクのおっさんだ。おせぇんだよ」
しかし、次の瞬間、KMシリーズたちの様子がおかしくなる。皆、青白く爆発した第二地区の方にカメラを向けるとほとんどのKMシリーズがそちらの方面に行動を開始したのだ。
「シュラクのおっさんを狙ってるのか!? なんで!?」
「え、援護に行かねば!」
「やめとけ、シュラクのおっさんはけた違いに強い。唯一の弱さは民間人を傷つけられないだけだ。あたしが行っても邪魔なだけだ。むしろ人質にとかにされたら足手まといだよ」
神宮寺はそこまで言って不思議そうに首を傾げる。
「しかし、シュラクのおっさんの強さはAIも知ってるはずだ。普通なら避けるのに、なんでまた……」
「それはですね、彼の集中力をそぎたいからですよ。彼はダンジョンで起きてることを把握できますが、僕の目的を把握されて邪魔が入っては困る」
そうまだ幼い少年の声が聞こえ、神宮寺と桐谷は声のする方を見る。そこには白いローブを着た十歳程度の少年がにこやかな笑みを浮かべ立っていた。神宮寺は少年に対しても油断なく銃口を向ける。
「見ねぇ面だな。てめぇ、誰だ?」
「はじめまして人類。僕はヨハネです」
ヨハネ。それがAIたちを統括しているロボットの名と思い出し、桐谷も神宮寺も目を見開く。目の前の少年はどう見ても人間にしか見えなかった。声だって機械的ではなく人間の声そのものだ。
「ああ。僕もきちんとロボットですよ? KMシリーズです。ただ攻撃性KMシリーズと違い人類との交流交渉目当てで設計されてますので限りなく人間に近い造形をしているだけです」
ヨハネはそう言うがまぶた、唇、目の動き、耳、どこをとっても人間にしか見えない。あえていうならその造形が完璧すぎることか。ヨハネの肌の質感や眼鼻のパーツ位置は完璧な美少年であり、なにか出来の良すぎるCGみたいな違和感があった。
「てめぇの目標はなんだ?」
「ああ、それはですね」
ヨハネがにこやかにそういった瞬間、近距離物理攻撃タイプのKM二〇一が神宮寺に高速で近づくとその体にパイルバンカーを打ち込む。神宮寺マリヤの身体は派手に遠くまで吹き飛び、見えなくなった。
「神宮寺さん!?」
桐谷はマリヤを追おうとするがKMシリーズたちがその行く手を阻む。ヨハネは少し不満そうな顔をしていた。
「ふむ、意図的に衝撃を殺して身体を派手に飛ばしましたね。穴をあけるつもりだったのに。『人類最強』はさすがですね」
ヨハネはそう言いつつ、KMシリーズたちが桐谷の身体を拘束する。
「私も殺すつもりか!?」
「殺す? まさか。僕たちのダンジョン侵略目的はあなたですよ■■■■さん」
ヨハネはにこやかにそう言い、KMシリーズに拘束を緩めるように命じると、KMシリーズは桐谷を開放した。
そしてヨハネの言葉が一部ノイズがかかったように聞き取れなかった点が桐谷には気になった。
「この間からそのノイズみたいなものは何ですか!?」
「ああ、失礼。こちらは情報プロテクションです。我々が解析され、創造主たちに攻撃が行かないように一部の情報はこのようにプロテクトされているのですよ。■■■■はあなたのお名前が入ると思ってください」
桐谷はその言葉に驚く。
「なぜ私が情報プロテクションの対象なのですか!?」
「ロボットの名はKMシリーズというのはご存じですか? あれは『■■■■■■』の略です。ああ、当たり前だけど情報プロテクションされてますね。私から言えるのはここまでですね」
なぜ千年前の自分が未来のAIたちの情報プロテクション対象なのか? わけもわからず桐谷は困惑する。
次の瞬間、事態はさらに動いた。なんと突如ヨハネの顔半分が突然吹き飛んだのだ。パイルバンカーではじきとばされた神宮寺は即座にヨハネを破壊するために最大火力を用意していた。アンチマテリアルライフルによる神宮寺の狙撃。ヨハネは狙撃された方へ半分なくなった顔を向ける。そしてまだ残っている口部のマイクから声を出した。
「なんと愚かな……頭部デバイスには別段CPUは詰まっていないのに。複雑な表情制御をするのに頭部にCPUを埋める余裕があるとおもっているのですかね? まぁそもそも私はしょせん受信機に過ぎず、本体は別の場所な上に、仮に受信機が破壊されても……」
そしてKMシリーズをかき分けるように新たなヨハネが登場する。当然その顔は傷ついていない。顔が半分なくなったヨハネは新しいヨハネとハイタッチすると修復のため、新しいヨハネが来た方へ戻っていく。新しいヨハネがにこやかに語りだす。
「何の問題もありませんがね。いえ、見栄を張りました。結構問題なんですけどね。私一体を作る工数でKMシリーズが三十体は作れますから。我々に金や労働という概念はありませんが、わかりやすく言えば私は『高価』なんですよ」
「やはり本体は別の場所で管理されているか……」
「ふむ、IT的見地がある方と話すのは心地良いですね。正解です。私のAIにはスパコン並みのスペックが必要です。そんなものをスタンドアローンで搭載する余裕があるはずがないでしょう」
ヨハネがそう言ったとき、KMシリーズに拘束された神宮寺マリヤが連行されてきた。桐谷の時のように拘束を緩めず、地面に押さえつけられた神宮寺は叫ぶ。
「てめぇ、ぶっ殺すぞ! てめぇの〇〇〇を××に突っ込んで△△で◇◇◇してやる!」
別に彼女の言葉は情報プロテクションされているわけではなかったが、桐谷も眉根を寄せるレベルのあまりにおぞましいスラングなだけである。少しきょとんとしていたヨハネはしばらくすると嫌悪感むき出しの目を神宮寺に向ける。
「おお、おお、なんとおぞましい。久しぶりにスラングの翻訳機能をフルに使いました」
ヨハネは押さえつけられている神宮寺にかがみこんでニコリと笑みを浮かべる。
「■■■■■■さんですか? あなたは攻撃対象です。最初は非攻撃対象でしたが、あまりにも■■■■■■さん側の攻撃が苛烈であり対話は不可能だったので、攻撃対象に切り替えました」
桐谷は今明らかに「神宮寺マリヤ」にノイズがかかっていたことに違和感を覚える。なぜ自分だけでなくマリヤまで情報プロテクションの対象なのだろうか? しかし、今はそれよりも「非攻撃対象」という言葉が気になった。
「マリヤさん。非攻撃対象だったのですか?」
「……そういや、最初の方はなんかKMシリーズがあたしを見て武装解除するから『なんか知らんがラッキー』ってぶっ壊しまくりだったわ」
「あなたは我々が話しかける前に、我々を破壊しまくりましたからね……おかげで声もかけられませんでした」
ヨハネが呆れながら話を続ける。
「しかし■■■■■■さんが■■■■さんの妻であることから一時的に非攻撃対象にさせていただいてます」
「いや、思いっきりパイルバンカーで殺しにきたじゃねぇか……」
「アレは武装解除の一環ですよ。現に死ななかったでしょう? あなた方が夫婦である事実はこちら側で把握している情報と一致しますが……こちらとしては正直なところ、それは『口から出まかせではないか?』と疑っている。というよりも、脅威度が高い■■■■■■さんは正直殺してしまいたいので、すぐにお二人が夫婦と証明してください。証明できなければ殺します」
そういうとKMシリーズは神宮寺を開放したが、代わりにKMシリーズたちの複数の銃口が神宮寺に向く。神宮寺はつばを吐き捨て、五本指の中央にある指を突き立てていった。
「こんな世界に婚姻届けや結婚指輪があるとおもってんのか、ポンコツ!」
「別にそこまでお役所仕事的なことを言っていませんよ。夫婦を証明する方法はいくらでもあるでしょ? ほら、性交渉とか」
「夫婦でもこんな往来で出来るかボケ!」
確かに神宮寺の言う通りだったが、KMシリーズの銃口は今にも発砲しそうだ。焦った桐谷は神宮寺に謝罪した。
「神宮寺さん、すいません!」
「あ?」
桐谷は神宮寺を抱き寄せると突然、その唇を奪った。神宮寺は驚愕の後、怒りの表情を浮かべたが、すぐに真意に気づき桐谷に身をゆだねる。
やがて二人は唇を離すとヨハネが「ふむ」とうなずく。
「口腔交感ですか。まぁいいでしょう。一般的には■■■■■■さんのような方は夫以外の複数の男性とも口腔交感をしそうですが■■■■さんがパートナー以外の女性とするはずがない。お二人は高い確率で夫婦と推察します」
「……なんかこいつ今、物凄く失礼なこと言わなかったか?」
神宮寺は桐谷に小声で言う。
「おい、初めてだったんだぞ?」
「……私も初めてですよ」
実は桐谷は初めてではないがこの場では嘘をついた。悪意に基づかない話を円滑に進める嘘は桐谷はよく言う。「仕方ねぇ」と神宮寺はつぶやき、先ほどのキスの感触を思い出し、少し赤面した。
「では、■■■■さん、あなたは我々についてきてください。本来の予定にはありませんが■■■■■■さんも特別に許可します」
ヨハネはにこやかに答えるが、武装したKMシリーズが有無を言わさず武器を二人に向けている。
「私がついていけばダンジョンの侵略を辞めてくれますか?」
桐谷はヨハネに交渉を持ち掛けるが、ヨハネはにこやかに残忍に告げる。
「ああ、それは出来ません。我々は人類掃討もお仕事なのでいい機会です。魔物はできるだけ綺麗にします。抵抗するならあなたの拉致が少し乱暴になるだけです」
桐谷はそれを聞いた瞬間、絶望するが、すぐにかぶりを振り、自分にできる善意の全てを尽くすことにする。
「では私は今すぐダンジョン侵略を辞めないなら舌を噛んで自害します」
神宮寺もヨハネも驚いて桐谷の顔を見る。ヨハネはすぐにいつもの笑みを浮かべ語り掛けた。
「ご自身にそれほどの価値があるとお思いですか?」
「それを決めるのはあなたですよ」
桐谷は決意の目をヨハネに向ける。ヨハネはしばらく黙っていたがやがて嘆息した。
「いいでしょう。侵略中のKMシリーズは全て引き上げさせます。これでいいですか?」
「いや、それだけではだめです……ええっと」
桐谷の迷いを察した神宮寺は「一日で十分だ」と小声で告げる。
「本日一日の侵略も止めてください」
「はぁ。わかりましたよ。今日一日、侵略は行いません」
一日あれば地上との入り口は全て封鎖して、ダンジョンの位置も変えられる。神宮寺マリヤは少し安堵するが、慎重に自身の意見を告げる。
「お前ら、AIは信頼できるのか? 嘘ついて、すぐにUターンして侵略したら嫌だぜ?」
ヨハネはその言葉に侵害とばかりに目を丸くした。
「おや、我々AIは人類より嘘をつきませんよ?」
その言葉に桐谷は難しい顔をした。
「どうでしょう? 私の知る範囲ではCHATGPTも解答に困れば結構適当なことを言いましたけど」
「ふむ、我々■■■■■■AIをチャッピーなんかと一緒にされては困りますね」
意外と気さくな呼び方に桐谷は少し笑いそうになったが、街の状況を思い出し真剣な表情を保つ。
こうして桐谷宗次と神宮寺マリヤはAIに拉致されてしまった。偶然にもさらわれた日はシュラクとカシスが二人に対して計画を実行する当日であった。
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