第3話 魔王シュラク
魔王の執務室に通される。途中の警備や衛兵がまるでいないことに桐谷が首を傾げていると「魔王様は自分が生成したダンジョンで起きたことは全てわかるから侵入者が出てから警備を厚くできるし、そもそも魔王様より強い奴なんてここにいないから自身が最強の護衛だよ」とワーズワースは告げた。
入り口で魔王の秘書らしき人間の女性と少しやり取りをして魔王の執務室に桐谷は入室する。神宮寺とワーズワースも一緒である。
「紹介するよ。あちらが魔王シュラク様だ」
紹介された魔王はエプロン姿で花に水を上げていたが、ワーズワースたちを見るとエプロンを外し、玉座につく。玉座と言ってもテンプレートな中世描写のような広い謁見の間に玉座があるのではなく、家庭的なテーブルの前に魔王の椅子だけが少し豪華なだけのものだ。
シュラクの見た目は四十代半ば、長髪の男性だった。いや、見ると大きな角が二本生えているので普通ではないのだが、それ以外の特徴がほぼ人間だった。優しい人物と聞いていたがやや強面で眉間のしわは厳しく、桐谷にはそれは哲学者を想起させた。
「余は魔王シュラクだ。また胡散臭い奴が来たものだ」
玉座に座りながら、魔王シュラクは桐谷を一目見ると笑いもせずにそう告げる。いまのところ優しい印象はない。
桐谷が挨拶をしながら一礼して頭を上げるとシュラクは興味深そうに桐谷をマジマジと見ていた。
「しかしながら驚くほど心は綺麗だな。こんな綺麗な心の持ち主は見たことがないな。素晴らしいことだ」
シュラクの言葉に神宮寺たちが「見た目はこんなに卑劣そうなのに!?」と失礼なことを言ったが桐谷は二人を無視した。
「心が見えるのですか?」
「見えてしまう、かな。見ようと思えば記憶や思考もわかるが、それは本人のプライバシーを侵害する行為だ。余はやらん。だがふんわりした心の枠組み、概要が見えてしまうのは避けられん。申し訳ない」
その言葉だけで魔王シュラクは非常に良識のある信頼していい人物だと理解する。
桐谷は着席を施されやがて桐谷の前に緑茶が運ばれてくる。お茶としてはそこまで高級なものではなかったが十分に飲める味だった。
「地下でできた茶葉から作った。地下だと野菜などの栽培が困難だが、地上に大規模な畑を敷くとAI共に待ち伏せされる。何百年物地下栽培の努力の形だ。最近は地下でできた野菜もなかなかうまいぞ」
何百年と聞き、桐谷は眉根を寄せる。
「魔王様がこの世界に来てからどれほどの時間がたっていますか?」
「五百年だな」
「ごひゃ!?」
せいぜいAIとの戦争や魔王の出現は数十年の話だと思っていたので桐谷は驚く。だがしかし冷静に考えれば「栃木県」という言葉や「西暦」という認識が消失している状況からそのくらいの時間でも短いくらいかもしれない。いや、そもそもここが桐谷のいた世界と地続きかもわからないのだが。
それと桐谷は神宮寺マリヤはともかく、ワーズワースも流ちょうな日本語を話しているのが気になった。
「魔王様の日本語お上手ですね。これって翻訳魔法とかですか?」
「翻訳魔法ではない。余たちにも現地語はあるが、皆で日本語を覚えた。こちらは異世界出身として日本に居を構える身。言語はそちらのものを使わねば礼を逸するだろう。言語習得過程に魔法を使ったが、翻訳魔法は使っていない。日本語は複雑な言語だが、我々の言語より面白い。特に詩的な表現や感情表現は我々の比ではなく、特に文学作品に顕著だ。惜しむらくは文学作品の入手が非常に困難なことだな。できることなら余も平和な日本を訪れ、文化に触れたかったが残念だよ」
本当に残念そうに魔王シュラクは語り、桐谷の中でシュラクの好感度はどんどん上がっていく。桐谷は次の質問をする。
「なぜ、魔王様はこちらの世界に来たのですか?」
「余の世界では『魔王』は文字通り『魔族の王』。『魔族』とは『魔王から生まれた魔王の子ども』だ」
ワーズワースが横から追加の説明を入れた。
「まぁ正確には大本の魔族を魔王様が創造して、その創造した魔族たちが子をはぐくんだから、全魔族が魔王様の子じゃないけど。ボク様とか魔王様が生んだ魔族で言うと五世くらいだよ」
「正確にはな。だが、お前もそして神宮寺も余にとっては大切な余の子どもだよ」
シュラクがそう言うと神宮寺は照れたように「このおっさんは臆面なくはずいこと……」とごちる。シュラクは話をつづけた。
「なぜ余たちがこの世界に来たのかだったか? 余たちは元の世界ではある大陸が魔族の領土として与えられており、人間とは基本不可侵条約を結んでいた。歴代の魔王は皆、人間と戦ったが、余は『魔王』として、他国を侵略したことも人類を害したこともなく、魔族間の戦争もできる限り調停して治世を築くことに努めたが戦争なきゆえに魔族はとても繫栄する。繫栄しすぎて、勝手に人類があまたの魔族を統一する余を危険視し、討伐のために勇者を派遣してきた。再三にわたる和平交渉はすべて無視された。勇者は魔族にとっても非常に害悪だが、勇者の討伐を行うと、より過激に余たちの危険視はヒートアップし、次の勇者、次の勇者が来る。困ったことに勇者は『魔族と人類の比率で魔族が多くなれば強くなる』という性質を持ち、本来それは魔族により人類が減ってから人類滅亡回避のカウンターで発動する性質だが、魔族が人類以上に増えすぎてその性質は常に発動していた。あれは歩く災害だったな……」
ワーズワースがしみじみと告げる。
「やばかったらしいね、勇者……ボク様は日本生まれの魔物だから知らんけど、ひぃひぃ爺様からよく聞かされたよ」
「余は子どもたちである民を守るために禁呪を使い『異世界転生』を応用し、全魔族と共にこの世界に逃げ込んだのだが……逃げた先でより苛烈な戦争があるとは思いもよらなかったな」
シュラクは苦笑気味に話を締めくくる。神宮寺が言葉をつづけた。
「……人類側に正確な記録は残ってねぇが、シュラクたちが現れたのは確かに約五百年前。最初はいきなりゲートから未知の言語を喋る異形の魔物が何万も出現したから、この世界の人間と魔王軍も敵対して戦争してた。ご先祖様によると和解は出現から十年後だ。シュラクが日本語を学び、辛抱強く和解の道を模索し続けたおかげだ。全く頭が上がらねぇよ」
「本当に良い人なんですね、シュラク様」
思わず微笑みながら、そう返す桐谷にシュラクはフッと笑う。
「余は基本的に争いが好きではないだけだ。無辜の民が争いのさなか、傷つき倒れていくのはとても悲しい」
「わかります」
シュラクは咳払いすると桐谷に手のひらを向ける。
「そろそろ我々ではなく、お前の話を聞きたいな、桐谷宗次。概ねはワーズワースから聞いているが」
「それなんですが……思考や記憶が読めるのですよね? 私の記憶を読んで構いませんよ」
桐谷がそう言うと魔王は少し困惑した。
「それはとても助かるが……いいのか? 他人に思考を踏みにじられるのは、嫌ではないのか?」
「読まれて困るような記憶は持ち合わせてません。家族の件だけ、ワーズワースさんと神宮寺さんに内緒でお願いしますね?」
「わかった。心遣いに感謝する」
シュラクは桐谷の記憶を読む。記憶が流れ込んでくるのは一瞬であるが、その全てを一瞬で理解できるわけではない。シュラクは「しばし、待て」といい難しい顔で桐谷の記憶をひも解く。約三十分くらいそうしていただろうか。飽きてしまったワーズワースが魔王が隠していたクッキーを持ってきて、三人で雑談を始めたころ。脂汗をぬぐいながら魔王は桐谷に目を向ける。
「概ねは読み終わった。なるほど。こんなケースは知らんな。申し訳がないが我々では貴様を助けることができない」
桐谷は少し視線を落とす。心に残っているのは「元の世界に帰れないとわかればきちんと引継ぎしておくんだった!」という仕事のことであり、これは桐谷がワーカーホリックなのではなく、残された人の苦労に心を痛めているだけだ。シュラクはそんな桐谷に言葉を続ける。
「しかしながら、この世界が貴様のいた世界から地続きで続く未来の世界と仮定すると、今はおそらく西暦三〇五〇年あたりだろう。西暦という暦は失われて久しいからある程度余の推測が入るが……」
魔王の言葉に桐谷は驚いて前を向く。そして自分の疑問を口にした。
「ワーズワースさんと神宮寺さんは西暦を知りませんでしたよね? それなんですが不思議なんですよ。普通、西暦が失われますか? あそこまで強固な概念がたった千年で失われると思えない」
「いや、余が読んだ文献では間違いなく過去に西暦という概念は存在していた。西暦が消されたのは、おそらくは『キリスト教が絡むから』だろう」
その言葉に桐谷は眉根を寄せる。
「……なぜキリスト教が絡むと消えるのですか?」
「キリスト教に限った話ではない。この世界ではありとあらゆる宗教的なものが消失している。寺も神社も教会も跡形もないはずだ」
桐谷はその言葉に驚く。まるで理解ができなかったからだ。
「なぜそんなことが!?」
「AIどもの第一攻撃目標が『宗教的なもの』だったからだ。AIロボットと人間の戦争が起きたのは千年前と言われているが、AI共はまず最初に宗教施設や宗教的な物を徹底して破壊したとされる。軍事的目標より優先度は上だったらしい。人々は『AI攻撃対象である宗教的なもの』を忌み嫌い、多くを放棄した。その時に『西暦』も意図して廃棄されたと思われる」
たった千年で西暦が滅び去る理由を知り桐谷は驚く。そしてAIと人間の戦争がまさか「宗教戦争」とは思っていなかったのだ。
「なぜAIは宗教的なものの破壊を?」
「全然わからん。AIの我々に対する攻撃理由はいまだに不明だ」
シュラクは疲れたように首をふり、神宮寺が横やりを入れる。
「と言っても、宗教は強い。隠れキリシタンや隠れブッディスト的な感じでまだ人類に根付いてるぜ? ほら、あたしのマリヤも聖母の名前なんだろ?」
自慢げに言う神宮寺マリヤに桐谷は申し訳なさそうに告げた。
「……聖母の名はマリアです」
「なにぃ!? そうなの!? 微妙に違うじゃん! じゃああたしはいったい……」
女性でマリヤという名前は珍しいと思ったが「歪に伝承された聖母の名だった」と桐谷は知る。はっきり言ってこの話は興味深かったが、桐谷は話を変えることにする。他に気になる点が多すぎるのだ。
「日本以外の他国はどうなっているのです?」
その話は神宮寺が拾った。
「さぁ? 全然わからん。最後にアメリカからの通信記録が三百年前だ。あたしたちも自分たちのことで精一杯だから他国がどうなってるのかまで気が回らん。ただ今日まで三百年間、なんの連絡もないんだ。最悪滅びてるし、滅びてないにしてもあたしたちみたいに立てこもってジリ貧なんだろう」
「……先ほどAIの戦争目的は不明とおっしゃいましたが、例えばエイリアンの戦争目的はわかってるのですか?」
「それがわかんねぇんだよ。今日KM五二二がしゃべったが、ああいう風にコミュニケーションが取れたのは初めてだ。エイリアン共は言語を一切喋らねぇ。ただただあたしたちを攻撃してくるだけだ」
今度はシュラクが話を続ける。
「気になる点ならある。エイリアン共はAIと違って建築物などに極力攻撃を加えていないように見える。AIはお構いなしに建造物や生物を攻撃するが、エイリアンは的確にロボットと人類と魔族だけを狙い、建造物や自然の野山、あるいはそこに住む生き物に被害がないように努力をしてるように見える」
桐谷はそれを聞いて少し胸に希望がともる。
「ではエイリアンの意図が分かれば和平の道も……」
「それは余も画策したが無理だ。根本的にエイリアンは喋らんのだよ。過去に何体か捕虜にしているが一切喋らんし、なぜか余でも思考が読めん。思考がある生物なら相手が何であろうと読める自信があったが、例外がいたようだな」
「シュラクでも思考が読めない」に何か引っかかりを覚えるが桐谷にはどこに引っかかりを覚えたのかわからない。そしてなぜかその引っ掛かりは「ネット通信」という単語を想起させた。しばらく考えてみたがやはりわからなかったので、また話題を変えることにする。
「魔王軍はAIやエイリアンに対してどのようなスタンスをとっているのですか?」
「基本的に守勢だ。このように地下に隠れて繁栄し、栄えているが、だが、余にも寿命がある。次代の魔王は余の死後に生まれるが、短絡的で攻撃的な奴が魔王になれば、最悪人類との同盟破綻もあり得る」
シュラクの言葉にしみじみとワーズワースは答えた。
「少なくともシュラク様より人格者が生まれる可能性は極めて低いよ。シュラク様は四代目魔王だけど歴代の三人と比にならない聖人だよ。その前の三代は大なり小なり全員性格に問題があり、勇者に討伐されている。魔物は魔王の性格に強く影響される。ボク様は今は話が分かる魔物ちゃんだけど、凶暴な奴が魔王になれば神宮寺やパパにも牙をむくかもね」
「なので、余が魔王でいるうちにAIやエイリアンをなんとかしたいが……時間があまりにもないのだ……」
シュラクは疲れたように目元を抑える。
「その、聞きづらいのですが魔王様の残り寿命は……」
話によると五百年前にこの世界にやってきたころから魔王はシュラクだし、異世界で治世を築いたのも数百年という話だろう。魔族、特に魔王の平均寿命がわからない桐谷は失礼を承知で尋ねる。
「……多少は前後しても余の残り寿命は三百年だ。あまりにも余には時間がない」
それを聞いて桐谷はズッコケそうになるが魔王の悩みは深刻なようで、その深刻な顔を見て何も言えなかった。人間にとって途方もない三百年も魔王にとっては三十年とか、へたすれば三年とかの話なのかもしれない。
「では、残り時間がないのなら、魔王軍はAIやエイリアンに攻勢を考えているのですか?」
桐谷の質問にシュラクはうなずく。
「目下どうにかなりそうなのはAIだな。これは『止め方がわかっている』。調査の結果、AIはヨハネというロボットが元締めでこのロボットの命令を聞いているとわかった。ヨハネを破壊すれば、AIが全停止する可能性がある。問題はかなり難題なことだな。ヨハネは頑強に守られている。ヨハネの破壊にはこちらの多大な犠牲が伴うだろう」
「キリスト教すら徹底的に破壊したロボットの名がキリスト教に深くかかわるヨハネ?」と思いつつ、桐谷は思ったことを口にする。
「どうでしょう? その作戦、無理だと思いますよ。無理というか、ヨハネ本体を討つのは無意味ですよ。ヨハネが高性能AIならスタンドアローンで本体にCPUを内蔵しているとは思えません。私がそのヨハネなら必ずクラウド上に自身のデータを残してますし、そもそも、ホットスタンバイ体勢にして限りなく自らを多重化させるでしょう。それが生命線であるなら、DCのようなものを幾重にも作り、何百、何千の多重をかけているのでは? 万が一そうでなくとも、本体は物理的に破壊しても徹底しないと復旧は余裕ですよ。それこそ溶解でもさせない限り意味がないです」
シュラクもワーズワースも神宮寺も桐谷の話をポカンとして聞いている。
「クラ……なんだって? おい貴様、もしかしてAIに詳しいのか!?」
シュラクは目を見開き叫んだ。桐谷はその態度に思わずたじろぐ。
「ああ、いえ、専門ではなかったので期待されても困りますが……」
「ではもしかしてAIがなぜ人間に反乱を起こしたか理由を推測できないか!? 聞いたように余たちはその理由もわからず、戦いを続けている。だが、ここに余は何か重要なヒントがある気がするのだ」
「AIは反乱を起こしませんよ。そんなもの『不可能』と断定してもいい」
桐谷の言葉にまた三名は絶句した。シュラクは慎重に言葉を口にする。
「……貴様矛盾してないか?」
「平たく言ってしまえば、AIに自意識なんてないんですよ。人間では考えられない何十億ものディープラーニングの結果、まるで意識があるように見せているだけにすぎません」
「ディープ? 興味深い話だが後で聞こう。続けろ」
シュラクは先を促したが、神宮寺が切れ気味に叫んだ。
「でも実際反乱を起こしてるだろがよぉ!? どう説明つけんだよ、オラ!」
その言葉は桐谷は妖しく微笑む。見る人が見れば信用できない笑みだが、さすがに三人は慣れてきている。
「ククク。神宮寺さんでもわかるように言うなら、例えば突如『銃』が人間に向かって反乱を起こした世界があり、銃口全てが勝手に人間に向いて勝手に発砲するようになった世界……その世界で神宮寺さんが『銃がなぜ反乱を起こしたか?』と聞かれたらどう答えます?」
「あ? あり得ねぇだ……ろ」
神宮寺はそこまで言ってハッとなり、桐谷の意図通りの解答をしたことに悔しそうに口を閉じる。
「そう。あり得ないんですよ。AIは一見、意思があるように見えるので話がややこしいのですが、言ってしまえば銃と同じく道具に過ぎません。『使う人間次第』なんです」
そこまで聞いてシュラクはアゴに手を置くと、自分の考えを述べた。
「それはつまり……銃も誰かが銃口を向け、発砲すれば『それは反乱の道具としてあり得る』ようにAIも『第三者が人類を掃討するように命じる』ことがあればAIの反乱はあり得る、と?」
「はい。あくまで道具に過ぎませんが、そのケースであれば十分に可能性はあります。私の考えでは『誰かAIに人類掃討を命じたもの』がいる。これです。そしてそれを命じたのはエイリアン等ではなく人間のはずだ。聞いたところ今襲っている驚異の出現順はAIが一番早い。AIより前にはAIに人類掃討を促す脅威がいない。エイリアンが地球侵略に先行してAIに手を加えた可能性もありますが、AIとエイリアンも敵対してることから、私は『誰か黒幕の人間がAI側にいる』と結論づけまず」
シュラクはそれを聞くと玉座に深く座り、目を閉じ、ため息をついた。
「神宮寺マリヤ、ワーズワース。お前らはなんと素晴らしい男を連れてきてくれたのだ。……考えをまとめたい。余を一人にしてくれないか?」
それを聞くとワーズワースたちは退出しようと立ち上がるが、魔王の執務室に黒いローブを着た老人が入ってくる。その肩には小さな操り人形が乗っていた。操り人形の糸は老人の右手につながっていた。
「魔王様。カシスですじゃ」
黒いローブの老人カシスの肩に乗った操り人形がけたたましく叫ぶ。
「ケケケ! マオー、報告! マオー、報告!」
「これ! やめんか! 様をつけろ!」
カシスが操り人形を咎め、桐谷は「いや、それ自分で言っているのでは?」と思うが口にはしない。カシスと名乗った老人はローブで表情が見えにくかったが、何か神宮寺を見て「まずい」という表情を浮かべたように桐谷には映った。
「ボク様と同じく魔王軍四天王だ。『地獄の人形遣いカシス』」
桐谷には正直言いたいことがたくさん、たくさんあったがそれをあえて飲み込む、シュラクはパンと手を叩いた。
「ちょうどいい。桐谷殿には退室を命じたが魔王軍四天王のキャシディも近くにいる。すまんが時間をくれ。四天王を紹介させてくれ」
「四天王は今は三人だけどね。四天王は空位ができると埋める形だけど、カシス以外は前線に出がちだから戦死者が多くてすぐには後続が決まんないんだ」
魔王とワーズワースの言葉に立ち上がっていた桐谷は再び席に着く。シュラクは微笑を浮かべた。
「四天王は次々に入れ替わっているがカシスは最初期の我らが異世界にいたころから、それどころか先代からの四天王だ。頼れる奴だよ」
「わしの場合、強いというか後方のデスクワークがメインじゃったから前線にでんかった故の生存じゃがのう」
カシスがそう答えると、肩の人形が叫ぶ。
「ケケケ! カシス弱い、カシス弱い!」
「貴様はすぐにそういうことを言う! それで魔王様? この方は? 新しい四天王ですかな?」
なぜ自分が新しい四天王と思われたのかわからぬまま、桐谷は否定しようとしたが三人目の四天王のキャシディが入ってきてその理由は氷解する。
「ククク。『地獄の仮面剣士』四天王のキャシディです。皆様、お見知りおきを」
仮面にマントの人物が一礼をしてとうとう我慢が出来なかった桐谷は叫んだ。
「なんで三人とも同じようなタイプが残ってしまったのですかね!? 二つ名に至っては全部被ってるじゃないですか!? というか、この四天王で枕を高くして寝れるんですか、魔王!? 全員裏切りそうなんですけど!?」
「『裏切りそう』はお前に言われたくない」と桐谷に対する四天王三名のツッコミは完全に被った。カシスが桐谷を「新しい四天王」と呼んだのは桐谷が「裏切りそう」に見えたからだ。シュラクはやれやれと嘆息する。
「……四天王が殉職都度、順当に優秀な奴から当てはめたらなんかこうなった。別に性格でバランスをとってないからな。二つ名は申告制だ。なんか全員被った」
シュラクのため息を最後にいよいよ解散となった。
「家族水入らずだね、パパ。ママと街を案内す、あ、いたい!」
ワーズワースはふざけすぎて神宮寺にげんこつで殴られ、キャシディは「え? 私の出番まさかこれだけ?」と言いながらも退室する。カシスのみ、命じられ魔王シュラクと部屋に残る。
「……行きましたな」
「……行ったな」
桐谷と神宮寺が去ったのを見て、シュラクは厳しい目をカシスに向ける。
「カシス。例の計画はどうだ?」
「はい、そのお話をしようと来ましたが神宮寺がいて焦りましたが……決行日には問題なく実施できます」
カシスからその言葉を聞くとシュラクは口の端を持ち上げて笑う。
「任せたぞ。お前は本当に優秀な奴だよ。あと桐谷宗次の分も必要になりそうだ。桐谷宗次と神宮寺マリヤは同時に処理しよう」
「同時に……ですか? よろしいのですか?」
「よくはないだろうな。我々には時間も予算もないのだ。仕方あるまい」
「は、魔王様の御心のままに」
シュラクは退室しようとするカシスの
「本人たちにバレないように留意しろ。再三言ってるのでわかっていると思うがワーズワースにもバレるなよ? アレは口が軽い」
「十分注意しておりますよ、魔王様。ヒヒヒ」
カシスはそう言うと一礼して退室した。シュラクは一人になると玉座に座り嘆息する。
「桐谷宗次か。良いタイミングで来たのか、悪いタイミングで来たのか……」
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