第2話 荒廃した世界
ようやく落ち着いた桐谷宗次に「とりあえず、ボク様らの秘密基地に案内するよ。KM五二二のパーツを運ぶにも人手がいるし、基地のメンバーを呼ぶ必要があるしね」と声をかけたワーズワース。桐谷はコクリとうなずくと腫れた目をこすりながら二人についていく。
「……マジだ。廃ビル周囲を囲っていたKMシリーズがいなくなっている」
ワーズワースはKM五二二の言った『周囲一帯のKMにも攻撃解除信号を送ります』という言葉が事実だと知り、目を丸くする。
「気をつけろよ『他の奴ら』はいるかもしれねぇ」
周囲の警戒を怠らず、慎重に歩きながら三人は進んでいく。桐谷は荒廃した荒野に廃ビル群が並び立つような風景を見ながら「日本ではないのか?」と疑問を抱く。
「それで……ここはどこなんですか?」
気が落ち着き、ようやくそう口にした桐谷の胸ぐらを神宮寺はつかんだ。
「おう、そういえばてめぇよぉ。さっきあたしを妻とか言ったよなぁ!? てめぇこそ誰だ!? アレはどういう了見だ!?」
「あ、あれはあの場を誤魔化すためです! 仕方がなかったでしょ!?」
桐谷は慌てて弁明するが、ワーズワースが茶々を入れる。
「えー、マリヤとこの人お似合いだけどなぁ? まるで最悪の犯罪者カップルみたいじゃん! ね、パパ?」
「あぁ!? 誰が犯罪者だ! ぶっ殺すぞ!」
「そういうところだよ?」
ようやく胸倉を離された宗次は自己紹介を始める。
「えっと、私の名前は桐谷宗次です。栃木県の生まれです。年齢は二十六歳、現在の職業はIT系のエンジニアをしています」
それを聞いたワーズワースとマリヤは顔を見合わせ、首を傾げる。
「ねぇマリヤ。このお兄さんの言ってることわかった?」
「いや全然だ。桐谷とマリヤでちょっと名前が似てて嫌だなってことくらいだな」
桐谷にはそれが信じられなかった。落ち着いてみれば二人の喋っている言語は完全に日本語。そして先ほど聞こえた四国めたん。ここは完全に日本だと思えたが、二人には桐谷が言っている意味が全く通じていないのだ。
頭を振って宗次は話題を変える。
「私は西暦二〇二四年の日本から来たのですが、ここはどこでしょうか?」
「せいれ……? いや、何言ってるか全然わからん」
マリヤは目を細める。桐谷は驚いた。いくらなんでも西暦がないはずがない。ここまで話が通じないということはここは「日本ではない日本語が通じる世界」なのか。なんだそりゃと桐谷は思うが、逆にワーズワースが彼に尋ねた。
「君はなんで急に空から降ってきたんだい?」
「私が聞きたいですよ」
宗次はそう答えるとできるだけ簡略にこの二人にもわかるように言葉を選びながら説明を進める。DCに勤めていて急な地震が起きてNW機器の下敷きになったと思ったら、気づいたらここにいたこと。
マリヤは「戦いのない平和な世界なんて、あり得ねぇだろ」と口にしたが、ワーズワースは意味深につぶやく。
「やはり異世界転生……のような気がするなぁ」
宗次は「異世界転生ですか。そんな気がしてましたが」と言い、マリヤは「あ? 何だそのふざけた言葉」と言った。
ワーズワースは宗次が「異世界転生」を知っていることに驚きつつも解説を続ける。
「ボク様のいた世界では珍しいけど、そこそこあったんだ。他の世界から漂流してくる現象が。それを応用してボク様達はこの世界に来たわけだしねぇ♪」
桐谷は改めてワーズワースとマリヤを見る。少し汚れたレザージャケットを着ているマリヤはまだこの世界に合っているが、ピエロそのものであるワーズワースは明らかにこの世界観から浮いている。
「あの……改めて聞きますが、ここはどういうところなんですか? お二人はどういう関係です?」
それを聞いたワーズワースとマリヤは顔を見合わせる。その視線には「説明が大変すぎるけどどうする?」という意思が多分に含まれていた。
「説明するけどよ。面倒だから返事は全部オーケーにしてくれないか?」
「へ? なんでま……」
「オーケーだ! うすらとんちんかん!」
「は、はい。オーケーです」
神宮寺マリヤは自分とワーズワースを指さす。
「あたしは神宮寺マリヤ。こいつはワーズワース。まずそれはオーケー?」
「お、オーケー」
ワーズワースがその名を呼んでいたので「マリヤ」という下の名前は把握していたがフルネームで聞くと神宮寺マリヤは日本人的な名前に聞こえる。しかし、ワーズワースはどうだ? 明らかに異質だ。
しかしそんな桐谷の思考はそのあとの情報に塗りつぶされた。
「で、今この世界はAIが反乱を起こしたことによりロボット共が暴走。さっきの奴だな。おまけに宇宙からは未知のエイリアンが攻めてきたうえに、異世界のゲートが開いて魔王軍もいる。ついでに最近ゾンビまで観測されだした。ま、ゾンビは数がすくねぇし、AIとエイリアンに狩られてあんまみねぇが。ここまではオーケー?」
「全く持ってオーケーじゃない!?」
明らかに情報過多であった。「人類とロボットが戦争をしている世界」はなんとなく予想がついたがそれ以上にやばい世界だった。その時、微かなキーンという高い音が聞こえる。
「……おっと。隠れろ」
マリヤは最寄りの廃ビルに隠れる。しばらくするとその上空を三機の丸い飛行物体が通り過ぎて行った。しばらくしたあと、桐谷宗次は口を開く。
「……UFO?」
「ああ。エイリアン共の移動手段兼戦闘兵器みたいなもんだ。昔はAI側も飛行タイプのKMが多くいたらしいが、今は制空権はエイリアンのものだ。基本的にあたしたちは高度を飛行する物体への攻撃手段に乏しい。アレの処理はAI共のロボットによる対空兵器頼みだな」
「AIとエイリアンも戦ってるのですか」
マリヤはまた荒野を歩き出しながら桐谷の言葉に肯定してうなずく。
「今、襲っている危機を言ってみろ」
「ええっとAI、ゾンビ、エイリアン、魔王でしたっけ?」
「そうだ。偉いぞ。よく覚えてたな。それらはな、幸いなことに全勢力が相容れないんだ。あたしたちの基本戦術は『守勢』。攻勢に出るときも、勢力同士をぶつけ合って、つぶし合いをさせているというか、はっきり言えばそれらの勢力は『人間』を敵対勢力と見なしていない。クソ弱小だからな。で、だ。人間はこの中で唯一、手を結べそうな勢力と手を結び共同戦線を張っている」
桐谷は改めてワーズワースを見た。明らかに浮いている格好だが「魔王軍の一人」と考えれば納得がいく。
「もしかして魔王ですか?」
「よくわかったな」
「そこまで言ってわからないはずないでしょう。ワーズワースさんは魔王軍配下なんですね?」
ワーズワースは桐谷の言葉に対し「そうさ、魔王軍四天王『地獄の道化師』ワーズワースさ!」と自慢げに笑う。神宮寺は話をつづけた。
「魔王のダンジョン精製能力のおかげで今は地下に巨大ダンジョンを作り、人間も魔族もそこに暮らしている。偽装魔法が効いているから、今のところAIにもエイリアンにもダンジョンは発見されてない。今日はあたしとワーズワース、他八名は偵察兼資材調達だったがAIロボット共と思わぬ遭遇戦になっちまった」
そこまでうなずきながら聞いていた桐谷宗次はふとある物が目に入り、膝をつく。
「あ? どうしたんだよ?」
青い顔をしている桐谷を神宮寺は心配そうにのぞき込んだ。桐谷の細い目は驚愕に見開かれており「信じられないものを見る目」をその対象に向けている。
「なんてこった……」
「なんだ? アレがどうした? 確かに建物の残骸としては多く見るけど……」
「……いえ、ここは異世界でも何でもなかったみたいだ。ここは私の良く知る世界でした……」
桐谷宗次は膝をついたまま、呆然と「ソレ」を見続けていた。ほぼほぼ風化して、ギリギリのところで原型を留めている「ローソン」の看板と元々コンビニであったであろう半壊した建物を。
◇◆◇
「ここはおそらく、自分が暮らしていた二〇二四年より未来である」と推測は出来たがそれ以上の情報は神宮寺もワーズワースも持っていなかったため不明のまま、桐谷は五キロほど歩き、地下ダンジョンの入り口につく。
「ここが入り口ですか? 何もないように見えますが……」
ただの荒野にしか見えない地面を桐谷は注意深く見るが、やはり普通の地面にしか見えない。
「周囲に誰もいない。ワーズワース、開いて大丈夫だ」
周囲を警戒していた神宮寺に命じられワーズワースが何やら詠唱すると、突如、地面に巨大な扉が出現し音もたてずに開く。ひんやりとした空気を肌に感じた。
「何もなかったのところに入り口が……」
驚く桐谷にワーズワースは答えた。
「キャハハ! 入り口は魔術で巧妙に隠蔽されてるからね。全国の離れた各地に五か所の入り口兼出口があるけど、空間移動技術を使って全てが同じダンジョンに繋がっている。結構、入り口作りは大変なんだよぉ? それこそ決死作戦だね」
「キュウシュウにもう一個作りたいけどな。北の方にしかないから、南に行くのが大変だ」
「それを言うならシコクが先でしょお? あそこは一つも入り口を設置してないんだよ?」
「なんもねぇだろ、シコク」
「ボク様も『地獄の道化師』として『シコクと地獄』は類似した地名だから気になってるんだけどねぇ」
ワーズワースと神宮寺の論争を聞いて桐谷は「栃木県は知らなかったけど九州とか四国とかの大枠的な地名は残ってる感じか」と思う。偽装魔術とやらで巧妙に隠されていた入り口から地下ダンジョンに入る。
ワーズワースのランタンを頼りに、長く暗い廊下を歩いていると途中で桐谷は何かキーンと高音がして、少しめまいがしたが、神宮寺が「今、空間転移が起きてダンジョンにつながった。あたしもまだ空間転移には慣れない」と告げる。
やがて地下通路からかなり広々とした地下ダンジョンにたどり着く。ダンジョンと聞いてもっと暗く狭いものを想像していたが、想像をいい意味で裏切り、整然とした街並みが地下に広がっていた。ダンジョンで生活している人々も活気に溢れており、人間のほかに桐谷もよく知るオークヤハーピーやスケルトンなどの魔族も多かったが、皆、地下生活が続き、地上では壮絶な争いが起きているのに表情に暗さはない。それだけ魔王の治世がうまくいっているのだろう。
「え!? マジで!? いや、どうせ、いつかは連れていくつもりだったけど……」
ワーズワースが突然電話するみたいに中空を見る。まるで通話中の人だが、もちろん携帯電話は影も形も見えない。
「魔王からの魔術通信だ。魔王は配下の魔族全員にこういう風にテレパシーを送れる」
不思議そうにをワーズワース見ていた桐谷に神宮寺は補足した。ワーズワースは通信を終えて困ったように桐谷を見た。
「ボク様たちのボスがパパに会いたいらしいよ。パパ、ごめんね。不思議なことの連続で疲れてるのに……」
「それはいいのですが、ボスとは魔王ですか? そういえば、人間側にも代表はいるのでしょうか?」
「人間側の代表もいるにはいるが、いわゆるあたしらの頭は魔王だよ。悪く言えば人間は魔王軍に下った形だが、当の魔王があたしたちを対等に扱ってくれてるし、魔王の保護がなけりゃあたしらもっと悲惨に生きてたさ」
「魔王はどのような方なんですか?」
桐谷の質問に神宮寺とワーズワースは少し考えて同じような返答をした。
「めちゃくちゃ良い奴、だな」
「優しすぎてそれが欠点って感じ」
実はあまり魔王に会うことに気が進んでいなかった桐谷はそれを聞いて俄然会うのが楽しみになってきた。
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