キリヤマリア!~中盤で裏切りそうなやつ未来へ~
たか野む
第1話 性格のいいひと、見た目の最悪の人
「あなたの周りで『優しい人』もしくは『性格の良い人』は誰ですか?」
もしも桐谷宗次(きりやそうじ)の知り合い十人がその質問を受ければ、十人全員、桐谷宗次の顔を思い浮かべるだろう。
しかし「自分の知り合いでいちばん優しいのは桐谷宗次だ」と即答するものは非常に少ない。せいぜいが二人だろう。
十人のうち五人は深く悩んだ後に色々と言い訳を言いながら桐谷宗次の名を上げ、残った三人は桐谷宗次の顔を思い浮かべながら別の人物の名を上げるだろう。
確かに桐谷宗次は稀代の善人であったが同時にこれでもかというくらい、うさん臭い容姿をしていた。
桐谷宗次はITエンジニアである。今の現場は
桐谷宗次の眼は細く、キツネや猫を思わせた。彼は近眼で目を細める癖があった。眼鏡をかけているので、近眼はすでに問題ではなかったが目を細める癖は治っていない。ほほには痛々しい刀傷のような物がついており、本人によると「小学生のころ彫刻刀でついた傷」ということだ。
髪型は男性にしては長めのミディアム、黒のタートルネックのセーターを愛用し、寒がりなため、冷房の効いた場所では夏でもタートルネックをしている。声はその容姿からやや高めの声を想像されがちだが、低めのハスキーボイス。声優じみたよい声をしており、厳かな宗教家の説法も思わせる声色であった。
基本的に笑みを浮かべているが張り付いたような笑みは非常に胡散臭い。趣味はお笑い番組鑑賞であり、よく思い出し笑いをしている。よりにもよってその笑い方は「ククク」である。
そして唇が乾燥しやすいので、よく舌なめずりをする癖があった。
例えばあなたが映画やアニメを鑑賞しているときに、タートルネックのセーターに細身の高身長で顔に刀傷があり目が細く張り付いたような笑みをしながらやたらいい声で「ククク」と笑うキャラクターがいたらどう思うか?「裏切りそう」と思った方は、前述の質問で桐谷宗次の名を上げなかった三人を非難できない。この三人も桐谷宗次の善性を知りながら、信じ切ることができずその名を上げる勇気がなかったのだから。
その日、桐谷宗次は少し遅めのランチタイムをとっていた。お昼に大型のNW機器ラッキング作業があり、他の同僚に昼休憩を取らせるために一人で頑張り過ぎたのだ。
「ククククク……」
ブラックコーヒーを飲みながら眼鏡を光らせ、桐谷宗次は意味深に笑うが、なんてことはなく昨日見たお笑い番組を思い出し笑いしているだけだ。しかしはたから見ると「何か裏切りの算段でも立てているのか?」としか思えない。
「あの……桐谷さん。少しよろしいでしょうか?」
後輩の女子が恐る恐る尋ねる。桐谷と共に仕事をして半年になるのでいい加減「この人は良い人」とわかってはいたが心のどこかで不信感がある。
「おや? 斎藤さん。いかがしましたか?」
笑顔のいい声でそう返すが、明らかに腹に一物ありそうだ。腹にあるのは「このコーヒーは当たりだな。次も買おう」であるが。
「えっと、桐谷さん、昨日、安藤さんがベンダー指示して五〇Uに配置した
「ああ、はい。H2AのM列一二番ラックでしたっけ?」
生来の記憶力の良さから桐谷はスラスラと答えるがそれも「なんで知っているの?」と後輩には不気味にうつる。
桐谷はITに疎い知合いに自分の仕事を説明するときに「まぁサーバやNW機器を色々する仕事ですよ。ククク」と意味深に答え「人に言えないサーバの作業……ハッキング!?」とよく誤解され「あなたが考えているのはハッキングではなく、クラッキングです」というITあるあるを言うのがお約束だ。桐谷が務めるDCは基本的に守秘義務があるので桐谷の仕事に対する曖昧な言い分は正しい。
「ええっと、そのNW機器なのですが、さっき別件でたまたま目にした時、気のせいですかね。何か下方向に歪んでいるような気がして……」
「ふぅむ、それはいけませんねぇ。あの機器の重さは六十キロを超えます。レールのつけ方が悪かったのでしょうか?」
そう言うと桐谷は休憩を切り上げ、脚立を持ちNW機器がラッキングされているサーバルームへ向かう。心底、NW機器と後輩を心配しての行動だったが「桐谷が意図的に歪ませたのでは?」とあらぬ誤解を生むのは見た目のせいだろう。
「……確かに歪んでいるように見えますね」
問題のNW機器を見上げながら桐谷はつぶやく。NW機器は重さに負けて、下方向に歪み始めていた。
稼働中のサーバルームは機器の駆動音で非常に音がうるさいので怒鳴るように桐谷が言う。
「あれはD社のレールでしたか!?」
「はい! そうです!」
後輩の女子も怒鳴り返すが、別に怒っているわけではなく、本当にうるさいのだ。
「ではねじを締め忘れた可能性があります!」
「安藤さんに限ってそんなことしますか!?」
安藤はベテランのCEである。この現場に配属後ミスらしいミスはない。
「誰にでもヒヤリハットはあり得ますよ。貴方も私もです。もしねじが締まってなかったら安藤さんはあとで『お説教』ですね。ククク」
壮絶に笑う桐谷に後輩はゾクリとするが、なんてことはなく桐谷の説教は温和な注意レベルであった。しかし、受ける者は意味深に感じて震えあがるのだが。
桐谷は脚立を設置し、そこを上りはじめた。その時であった。DC一帯に震度七の地震が襲ったのは。
「え!? 地震!? それもかなり強い!」
DCはかなり厳重な免震構造が敷かれており、多少建物が揺れてもラックにつまれたサーバ等に限りなく影響はないように出来ているがもちろん桐谷本人にそんな機能はなく、彼は脚立から落ちて、尻もちをついてしまう。
「うわ!?」
揺れはだんだんとおさまってきた。
「だ、大丈夫ですか?」
後輩の女子は「桐谷さんでもこんな不格好な時があるんだ」と尻もちをついている桐谷に近づくが、突如桐谷は半身を起して後輩の女子を思いっきり突きとばした。
「きゃ!?」
後輩は突然の事態に何が起きたかわからなかったが「ついに裏切ったのか!?」という気持ちが後輩の女子になくもなかった。
しかし、次の瞬間、その顔が青ざめる。桐谷の上に六十キロのNW機器が降ってきたのだ。桐谷はNW機器のぐらつきを視認し、後輩だけでも助けるために彼女を突き飛ばしたのだ。
「いやああああああああ!? 桐谷さん!? 桐谷さ……え!?」
後輩の目が驚愕で見開かれる。そこにあったのは脚立とNW機器だけで桐谷宗次の姿は影も形もなかった。そして、その後、桐谷が姿を現すこともない。これは「桐谷宗次神隠し事件」として様々な尾ひれがつきながら語り継がれることとなり、最終的に「桐谷宗次の正体はその後輩が助けたキツネで最後の恩返しのために力を振り絞った」という珍妙な所に着地する。
◇◆◇
爆風の熱でぶっ飛びそうな意識を保っていた。窓の外から銃声は止まず、もうすでに仲間は八人も死んでいる。
「くそ、弾切れか!」
廃ビルの二階にマリヤとワーズワースは立てこもりながら、窓から「攻撃性KM」の牽制をしていたがマリヤは弾切れ、ワーズワースは魔力切れ寸前であり、まもなく突入してきた攻撃性KMに皆殺しにされるだろう。準備が薄いままの遭遇戦としてはかなり善戦をしたほうではあるがあくまで善戦止まりの結末になりそうだった。AIに制御された無人の攻撃性KMは機械音を立てながら、慎重にマリヤたちが立てこもるビルを包囲しようとしている。
ここまで見れば「近未来的なSF戦争」と言えるがマリヤの相方であるワーズワースの見た目がものすごくおかしい。ワーズワースは幼い少女であったが道化のような格好をしていた。トランプのジョーカーじみた服装に、ふざけたようにクラブのマークを目元にメイクしている。何かのコスプレにしか見えない。狂気的な笑みを浮かべながら、ワーズワースは言う。
「キャハハハ! 仕方ないね、神宮寺。ボク様が活路を開くよーん。君は逃げな?」
神宮寺マリヤは少し目を開くがすぐに舌打ちする。
「聞かなかったことにしてやるよ。いますぐその阿保みたいな提案を引っ込めな」
「ボク様だって言いたかないさ。もっと道化みたいな死にざまが良かったのだけどねぇ。だけどこのままじゃ二人とも犬死。どっちかが犠牲になるならボク様だ。君、KM相手に武器なしで戦える? ボク様しか無理でしょ」
神宮寺マリヤはしばらく反論をしようと口を開いては閉じていたが、やがて涙目になり下を向く。
「すまん……すまないワーズワース……」
「良いってことよ、マリヤ。君が『私も一緒に死ぬ』なんて言わなくてよかった。君のそういう情より理を選ぶ側面はボク様よりシュラク様に必要だ。頼むぜ~?」
ワーズワースの外見年齢は中学三年程度、マリヤは二十代半ばだったが、まるでさかしまのようにワーズワースは泣きそうなマリヤの頭をなでる。
「んじゃま……行ってきま……おおお!?」
その瞬間、マリヤとワーズワースよりやや上の空間が急激に歪み、何かが出現しようとする。マリヤは先ほどまでの涙目を瞬時に驚愕に変えて目を見開く。
「なんだこりゃ!?」
「これは異世界転生!? この世界では初めて見るぞ!?」
ワーズワースも口をぽかんと開け、歪んだ空間を見ている。
そして中空から桐谷宗次が出現した。
「え!? ここは!? デ、データセンターは!? いや、それよりもあの子は無事なんですか!?」
桐谷目線では自分にNW機器が降ってきたと思ったらいつの間にかここにいた。生活なデータセンターから埃っぽい廃ビルに飛びパニックを起こしている。
マリヤもワーズワースも目を丸くする。そして次に考えたのは「この人、めちゃくちゃうさんくせぇ」だった。突然何もない空間から「中盤で裏切りそうなやつ」が出現したのだ。
「……黒幕の人ですか?」
おずおずとワーズワースが尋ねる。
他者のそういう態度には慣れ切った桐谷は「いえ違います。ここはどこですか?」と聞き返す。途中ワーズワースの見た目に少し驚くがその点を黙っている良識が桐谷にはあった。
「おいおいおい。どうなってやがるんだ!? さすがにいきなり人が降ってくるのは初めてだぞ!?」
神宮寺は事態を飲み込めず、そうぼやく。
「わ、私だって聞きたいですよ。クク」
そう言いながら笑みを浮かべ、眼鏡の蔓を上げる桐谷宗次。危機になると思わず笑ってしまうのは癖であったが、ワーズワースと神宮寺にはそれが邪悪な笑みにしか見えない。
「なんて邪悪な笑みなんだ!? 何を考えてやがる!?」
マリヤがそう言いながらサブマシンガンを向けようとして、さっきぶん投げたことを思い出し、舌打ちをする。
次の瞬間、轟音と共に彼女たちが立てこもっていた扉が歪んでいき、ゆがみの隙間から赤いモノアイがこちらを覗いてくる。その隙間に今度は鋼鉄の腕を入れると、信じられない膂力で扉を破壊しながら黒いそれは姿を現した。
「最悪だ……! KM五二二だ……!」
まるで不格好な四足の蜘蛛に人の上半身がついたような形状の四足歩行戦車であるKM五二二は攻撃性KMの中でも傑作と言われている。KM五二二は遭遇するにはあまりに最悪な殺戮マシーンであった。機動力、装甲、火力。どれをとっても勝ち目がない。桐谷宗次は全く持って事態を飲み込めず、ただただ呆然としていたが即座にかぶりを振るとマリヤとワーズワースの前に立ち、かばうように手を広げる。相手が女性だから守っているのではない。桐谷宗次は相手が老若男女善悪誰であろうとこの局面では絶対に自分を犠牲にしてもかばうだろう。
KM五二二の前の右手にはガトリングガンが見え、三人にその銃口を向けている。あれが火を吹けばたとえ宗次がかばったところで、後ろにいる二人の女性もミンチになるだろう。つまりは自分がやっていることは無駄な事。偽善による自己満足かもしれない。
しかし、そういうことではない。そういうことではないのだ。例え意味がないことだとしても自分がこの二人の前に立たないことがあり得ないのだ。「狂気的なまでの善性」。桐谷宗次はそういう男である。
そしてその狂気がこの場では正解を引いた。
神宮寺とワーズワースは目を閉じていたが、いつまでも銃声も衝撃も来ない。ワーズワースは恐る恐る目を開けるとKM五二二の赤いモノアイが点滅している。そんなはずはないのだが、まるで無機質なロボットが迷っているようにすら見えた。
やがてKM五二二は右手のガトリングガンを下げる。その場の三人は何が起きたのか理解できず唖然としている。
「おいおいおい、お前、何をした? KM五二二があたしたちを攻撃しないなんてあり得ないぞ……」
「やはり黒幕……」
マリヤとワーズワースが口々に勝手なことを言うと、女性の声が響いた。
『当機の音声を認識しておりますでしょうか? 返答を求めます』
その声がどこからしたのか、マリヤたちはすぐに理解できたが脳が理解を拒んだ。声は間違いなくKM五二二から聞こえていた。これまで、敵アンドロイドが喋ったのは人間に偽装し声をかけてくる「KM四七二」だけで、KM五二二がしゃべるはずないというのは二人の共通認識だった
KM五二二の声は完璧に無機質な声ではなくやや抑揚に欠けるような女性の声色だったが、逆にそれがKM五二二がロボットであることの証明のようにすら聞こえた。
「……これ、四国めたんですね」
四国めたんは桐谷がいた平和な世界で音声ソフトとして広く使われていたものだ。
「あ? しこ? 狂ったか、兄ちゃん」
疑いに目を細めるが、桐谷の言葉を聞いたKM五二二はまるで喜んでいるようにモノアイを点滅させる。
『四国めたんは正解です。■■■■様と認識。攻撃態勢解除』
KM五二二の声は一部ノイズがかかったように聞き取れなかった。
KM五二二は家臣の礼を尽くすように四つ足を跪かす。桐谷宗次は安堵の息を吐く。何がなんだかまるでわからないが、とりあえず助かった、そしてもちろん自分よりも後ろの見ず知らずの女性二人が助かったことに安堵していた。
しかし、ワーズワースと神宮寺の桐谷宗次を見る眼は懐疑的だ。突然出現し、KM五二二を従える桐谷が黒幕でラスボスにしか見えない。
そして事態はそれだけではなかった。
KM五二二は膝を起すとガトリングガンの銃口を再び桐谷に向けたのだ。
「は?」
桐谷は唖然とするがKM五二二は左手で桐谷にどくようにジェスチャーを送る。
『後ろの二人は敵対勢力です。すぐに離れてください。射殺します』
ようやく事態を飲み込みまだ危機が去っていないことを悟った神宮寺たちは顔を青くする。今にも桐谷宗次があっさりどいてしまうヴィジョンが見えた。
「だ、ダメです!」
しかし二人の予想と違い、宗次は頑なに首をふり微動だにしない。
『どいてください』
「ダメです! どきません!」
しばらく問答が続いたが、やがてKM五二二はため息をつくようにモノアイを点灯させる。
『どかぬなら、貴方をどかすだけです。貴方を殺傷せず、その場をどかすアクションは当機には三十パターンあります。そのうち傷害を与える可能性があるパターンもいくつかあることの留意をお願いします』
相変わらず抑揚に欠ける声だったが明らかに脅しのニュアンスを含んでいた。
「どうしてそんなに二人を殺したいんだ!?」
宗次がそう叫ぶとしばらくの沈黙後、相変わらず抑揚のない返答が来た。
『それでは敵対勢力をかばう理由を確認させてください。三十秒以内にはっきりとわかる声で解答をお願いします』
ここがどこなのか、後ろの二人が誰なのか、目の前のロボットは何なのかも「敵対勢力」がなんなのかも、まるで分らないが正念場だと桐谷宗次は考える。おそらく何か間違ったことを答えればこの女性二名の命は紙切れのように散り、下手をすれば自分の命とて危ういかもしれない。しかも、これまでから得られた解答へのヒントが少なすぎる。このロボットはなぜ、この二人を殺そうとし、自分を殺そうとしないのか? 敵対勢力という言い回し。なぜ、自分が味方と認識されているのか?
(いや、この際、私が味方と思われている理由はどうでもいい。問題は『敵対勢力を射殺させない正当な理由』だ)
宗次は頭をフル回転して考える。
『残り十五秒』
再び無機質な女性の声が響き、右手に格納されていたガトリングガンがゆっくりと回転を始める。桐谷は恐る恐る言葉を口にし始める。
「彼女たちは降伏している。降伏している武器のない人命を脅かすのか!?」
『理由は不十分です。敵対勢力は降伏の信号を送る我々も攻撃しました。こちらがやってはいけない道理がない』
桐谷宗次は思わず後ろの二人を見た。ワーズワースはバツが悪そうな顔でコクリとうなずく。
『残り十秒。九秒、八秒、七秒……』
桐谷宗次は減っていく時間の中、必死に考える。そして少し申し訳なく思い軽く二人に頭を下げて詫びながら自分が導きだした答えを告げた。
「彼女は私の妻、こっちの子は私の娘だ。『家族に死んでほしくない』。それ以上の理由が必要か?」
全くもって意味不明だがこの殺人ロボットは自分を友好視している。であれば、それを最大限に利用することしか桐谷には思いつかなかった。突然出現した見た目が怪しすぎる男に妻と娘にされた二人は「は?」という。KM五二二は『三秒』まで告げていた言葉を止め、何かを逡巡するように上を向く。長い長い沈黙の後、不承不承ながらというKM五二二の声が響く。
『正当な理由を確認。攻撃態勢解除。周囲一帯のKMにも攻撃解除信号を送ります』
よくわからないが助かった。三人は安堵の息を漏らす。そしてKM五二二が部屋から出ていこうと背中を向けた瞬間、それは起きた。
「キャハハハハ! ありがとうねぇ、パパぁ!」
ワーズワースが狂気的にそう叫ぶと突如、KM五二二の背中におぶさるように飛びかかった。KM五二二は慌てて銃口を背中に向けようとするがそれよりも早く、ワーズワースの手が赤く発光し、光の剣がKM五二二の首を直撃する。
ブシュウと煙を立てながら、四つの足が膝をつく。ガランと音を立てて、その首が床に落ちた。KM五二二の弱点は背後の首関節の防御が甘いことであったが、三六〇度カメラを搭載したKM五二二がこのように敵に背中を向けることがまずないので、公然の事実ながら狙いようのない急所であった。
「なんてことをしてくれたんですか!?」
一瞬あと、事態に思考が追い付いた桐谷がKM五二二に駆け寄る。完全に機能停止していたその首を抱きかかえ、必死に元に戻そうとするが元には戻らない。桐谷の目からさめざめと涙がこぼれた。
「あれ? もしかしてこの人良い人?」と「やはり黒幕だから自分の配下であるロボットが死んで泣いたふりしてらぁ」という気持ちが同時に襲ってきてワーズワースは困惑する。
「け! なに甘いこと言ってやがる! こいつらは敵だ! こいつらが何人、あたしらの仲間を殺したか!? それにKM五二二一体からどれだけの武器や弾丸、燃料や装甲が取れると思ってんだ!」
神宮寺マリヤは吐き捨てるように言う。桐谷宗次はそれでも涙を流しながら首をふった。
「それでも私はこの子に死んでほしくなかった。死んでほしくなかったんだ!」
ワーズワースは「ロボットに死はないよ」と水を差したくなったが、本気で涙する桐谷に水はさせず、ただただ黙ってみていた。「ハイパードライ人間」の異名を持つ神宮寺マリヤですら、桐谷宗次にこれ以上の口を挟まず「けっ。甘ちゃんが」というと中空を不満げに睨みつけていた。
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