3年前
それは大学生になって初めての夏季休暇中にやってきた。
どっかの物語で読んだような、日本語的に表現するなら絵に描いたような異世界。そんなところにご都合主義的に飛ばされたはいいものの、俺にはスキルがなかったのだ。俺を喚び出した王子の残念そうな顔は今でも思い出し笑いの種になる。
だから俺は苦労し続けた。……とは言え、転生モノあるあるなカンストHPとMP、それに王族特権で入手した希少アイテム重装備のお陰で1ワヴ——1年に近い概念なのだろうが、その世界には夜がなかったためはっきりした感覚ではわからない——もせずに、俺は魔王的なsomethingを倒す旅に出ることができるようになった。
そっから先はトントン拍子、雑魚モンスター倒して、それが中ボスになりだんだん強大な敵を倒せるようになったと思ったらいつのまにか世界を救っていて、王様に頭を下げられて――。
——そのあと、気づいたら俺はアパートの自室にぼうっと突っ立っていた。
目の前には、異世界に飛ばされた日と同じ日付を差し出すスマホの画面と、【申し訳程度】という一言が印字されたメモ用紙の下に積み上がっている課題レポート。宿題が済んでいるのか、ありがたい。急な展開にぼんやりとそんなことを思った記憶だけがうっすらと残っている。
えっ、それだけ? 誰かに話したらきっとそう言われるだろう。だが悲しいことにこれが事実なのだ。おかしいだろと叫びたいのは当事者の俺が一番酷い。
だってそうだろ? 異世界召喚されるんだったらありえねえほど美形の女神を拝みたかったし、無双できるチート能力欲しかったし、そいでもって俺に惚れてるエロい身体つきの姉ちゃんだらけ逆ハーレム! くらいあってよかっただろ? 男のロマンなでっかいケツとおっぱいはどこ行ったんだよ。いやこの際貧乳でも良いんだけど。どっちかくらいは出せよクソが。
だけどまあ、現実は残酷。
スキル無しのド陰キャ大学生な俺は、むさっ苦しい男どもの血と汗とナニカの洗礼を浴びたり腐臭漂う醜い化け物をぶった斬りまくったりして、夢も希望もねえ異世界を生き延びた。
ブラック企業の社員よろしく酷使されまくる異世界……学んだことがあるとすれば、哲学者ニーチェの“Gott ist todt! Gott bleibt todt!” (神は死んだ!今も死んだままだ!)という台詞に間違いはなかったということだけだ。畜生!
……まあ、何はともあれ、あの時すべて終わったのだ。
終わったはずだったのだ。
では、再び俺の前に現れたこのウインドウと【スキル】とやらは、一体全体何なんだ? 不思議に思ったのも束の間、すぐに俺は察した。再会したウインドウの意味と、恐らくはあのスキルに不条理に今後の俺の人生を捻じ曲げられたということを。
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