【スキル:祝福】の不条理

月野 麗

1日目

【おめでとうございます♪ミッションクリア報酬:新スキル】

 鳴り響くのは16ビット程度のような安っぽい音。


「は……?」


 俺は間抜けな声を出す。寝起きの頭は動かない。当たり前だ。

 突然目の前に浮かび上がった、薄青の表示。半透明の巨大なスクリーン——通称、ステータスウインドウは、かれこれ3年は見ていなかったものだ。空いた口が塞がらないとはこの事であろう。

 雀のちゅんちゅんした鳴き声をBGMに聴きながら、俺は布団を蹴り飛ばす。乱れたシーツが吐き出した真っ白な埃が陽光に輝いた。


「詳細表示っ!」


 久しく口にしなかった台詞に全身の血が騒いだ。と思ったが、これは「血」ではないと一瞬で気づく。己の身をかすみのように覆うこれは、

 ——魔力だ。

 ますます意味がわからない。余りの意味不明さに起き抜けの頭が痛くなってきた。シャットダウン、の一語が脳裏を巡る。慌てて俺は目の前に浮かぶ青をなぞった。指先にピリッと痛みがはしり、今が現実だと教えてくれる。

 【入手スキル:祝福】と宙に浮かんだ光を人差し指で弾くと、現れるのはずらっと横並びの白文字。俺はそれを睨みつける。


【詳細:スキル入手時に触れたものに対し祝福可能 1回の祝福につきLv.1UP(HP+5、MP+10) 上限…Lv.MAX】


 ……3回読んだ。が、ゴシックようの文字が俺から理解されることを拒んでいるようだ。或いはこの文章を考えたどこぞの誰かの文章能力が壊滅的に無いのかもしれない。

 久しく見ていなかった青を前に、嘆息。そんな俺の想いを受け取ったのだろう。ファーン、という微かな音と共にステータスウインドウは閉じた。俺は渇き切ってしまった目を少し抑えた。



 ——【勇者】と呼ばれていたのは、もう3年も前のことだ。

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