第3話なんか変わった?

変化は、いつも周りから来る。

「最近、早くない?」

 そう言われたのは、昼休みだった。

 褒められたわけじゃない。

 ただの事実確認。

「そう?」

 私は、特別な顔をせずに返した。

 実際、何もすごいことはしていない。

 早くなったのは、

 迷う時間を削っただけだ。

 前までは、

 完璧な順番を考えてから動いていた。

 今は、

 分かるところから手をつける。

 出来ないところは、後回し。

 詰まったら、次。

 その結果、

 トータルで早くなった。

「無理してない?」

 別の人が言う。

 心配でも、評価でもない。

 ただの確認。

「してないよ」

 それも事実だった。

 私は勝とうとしていない。

 だから、力も入っていない。

 その日の終わり、

 上司が一言だけ言った。

「今日、助かった」

 それだけ。

 表彰もない。

 評価シートも動かない。

 でも、

 昨日の私にはなかった言葉だ。

 帰り道、

 私はスマホのメモを開いた。

 今日の勝ち。

 一行でいい。

「無理せず、役に立てた」

 それを見て、

 少しだけ笑った。

 勝ち方は、静かに身につく。

 音を立てないから、

 気づいたときには、もう違う。

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2025年12月31日 21:00 隔週 日・水 21:00

負け続けてきた私が、勝ち方を覚えるまで なおや ゆかり @naoya06

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