第2話勝とうとしない練習

やり方を変える、と決めた翌日。

 私はさっそく失敗した。

 いつもより早く起きて、

 やるべきことを紙に書いて、

 意識も高めで家を出た。

 結果は変わらなかった。

 仕事は相変わらず手間取るし、

 評価も特に上がらない。

「……はいはい」

 落ち込みそうになって、立ち止まる。

 でも、今回はそこで終わらせなかった。

 私は紙を見返す。

 書いてあったのは、たった一行。

「今日は、昨日より一つだけ早く終わらせる」

 勝とうとしていなかったことを思い出す。

 比べる相手は、周りじゃない。

 昨日の私だけだ。

 タイムを測る。

 作業を分解する。

 分からないところは飛ばす。

 完璧じゃない。

 むしろ雑だ。

 それでも、

 一つだけ、昨日より早く終わった。

 たったそれだけ。

 誰も気づかないし、

 褒めてもくれない。

 でも、私は知っている。

 昨日の私は、これが出来なかった。

 帰り道、

 空を見上げて思った。

 勝つって、

 派手なことじゃない。

 負けない動きを、一つずつ増やすことだ。

 その日、私は初めて、

 負けなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る