負け続けてきた私が、勝ち方を覚えるまで

なおや ゆかり

第1話負け方だけは上手だった

私は、勝ち方を知らなかった。

 でも、負け方だけはやたらと上手だった。

 テストも、部活も、仕事も。

 努力していないわけじゃないのに、結果だけがついてこない。

 気づけば「まあ、私だしな」で全部を片づける癖がついていた。

 負けるたびに思っていた。

 才能がないんだろうな、と。

 でもある日、負けた帰り道で、ふと立ち止まった。

 ――本当にそうだろうか。

 思い返してみると、私は一度も「勝つためのやり方」を考えたことがなかった。

 周りがやっていることを、なんとなく真似して、

 なんとなく続けて、

 なんとなく失敗していた。

 それは勝負じゃなくて、運試しだ。

「そりゃ負けるよね」

 自分で自分に、そう言って笑った。

 その日から、私はやり方を変えた。

 悩むのをやめた。

 誰かに相談するのもやめた。

 代わりに、負けた理由を一つだけ書き出す。

 次にやることも、一つだけ決める。

 完璧を目指さない。

 勝とうともしない。

 ただ、「昨日の私」にだけ勝つ。

 それが、私が初めて覚えた勝ち方だった。

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